僕は誰も信用しない
兄上も、家族も

そもそも血すら繋がっていない奴らなんだから



文字どおり、僕は小さいころ突然養子としてこの屋敷に引き取られた

だから本当の家の場所なんて覚えてないし、無論両親の顔さえ思い浮かべようとしてもうっすらぼやけて思い出せない

当時はやはり、僕も幼かったから両親が恋しくてこの家を何度も脱走しようとした


そのたびにつかまってはお説教
どれくらい繰り返しただろうか

おそらく数十回を超えた頃から、諦めが現れはじめて、僕は両親に会いたいという感情を封じるため、一切の感情が消え、心が空っぽになってしまった


その頃の記憶はあいまいだが、兄上の優しい笑顔だけは今でも思い出せる


そんな抜け殻だった僕に、幾度も話しかけ、笑わせようとしてくれた


兄上に僕が心を開くのは、それほど時間がかからなかったんだ




でも、それも長くは続かなかった

それからほどなくして、僕が物心がついてきたくらいだった

【あの話】を聞いたのは


【あの話】



それは僕の目、この真っ赤な目に関することだった







【あの話】は衝撃的過ぎて、鮮明に脳が記憶している






ある日、僕は夜中にトイレに行きたくなってベッドから起き上がり、トイレへと向かっていた


眠たい目をこすりながら歩いていると、ふと、先の義父の部屋の扉が少し開き、明かりが漏れていた

ああ、まだ義父は仕事をしているんだなと思い、特に気にしなかったが、兄上の声がしたのでこんな夜中に兄上が義父と何を話しているのか気になって部屋にこっそり近づいた



そう、それがいけなかったのだ
この時僕がこの話を聞かなかったなら、今も大好きな兄上と仲睦まじく生活していただろうに



血は繋がってないといえども、この家族のことを実の家族のように思えただろうに




全てがこの瞬間に崩れ落ちた





義父

馨、あの子とはうまくやっているか。

馨(幼少期)

あの子って・・・漣のこと?

僕は自分の名前が出てきてドキッとする

馨(幼少期)

うん、『仲良く』してるよ、お父様。

兄上は屈託のない笑顔を向けて、義父にそう答えた

すると義父は安心したようにほっと息をつく

義父

ならいい。
ちゃんと監視はしているか?
怠ると将来、お前が危険にさらされるんだぞ。


『監視』?


その義父の言葉を聞いて、僕のあたまに疑問符が浮かぶ


『監視』?
兄上は僕を監視しているの?
なんで?


それに怠ると兄上が危険って何・・・?



義父

あの子は将来お前の前に立ちはだかる最大の敵だ。
殺すことはできないから今は情報だけでもしっかり集めておいて・・――――。

義父が言い終わらないうちに思わず僕は飛び出してしまう

漣(幼少期)

僕を殺すって・・・何で――?

義父

れ・・・漣!!???

義父は驚いて口を魚のようにぱくぱくさせる

馨(幼少期)

・・・・漣、やっぱりいたんだね。

対する兄上は想定内だというように、涼しげな顔を僕に向けていた


義父

馨!!!
気づいていたならどうして教えなかったんだ!!

馨(幼少期)

お父様、もう往生際が悪いよ。
・・・いつまでも隠しておける話じゃないんだから。

兄上が微かに笑顔を浮かべて、義父を見上げた。

義父

・・・・確かに。
馨の言う通りだな。
聞いてしまったならしかたない。
いいだろう漣、理由を教えてあげよう。

義父は改まってコホンと咳をする


そしてすぅっと目を細めて、これまでになく冷たい目で僕を見下ろした



義父

お前が将来、馨ととある世界で戦う時の最大の敵になるからだ。






意味が分からない


最大の敵?
なにそれ・・・

義父

・・・・馨は生まれたときからそれは碧い、青い、蒼い瞳だった。
私たち両親がどちらもそれほど蒼い瞳をしていないので、私はとても不思議だったんだよ。
そこで私は占い師を呼んだ。
このあたりでとびきり有名な占い師をね。

義父は昔を思い出すかのように、ポツリ、ポツリと語りだした

義父

すると占い師はこう言ったんだ。
【将来、この子は命にかかわる重大な事件に巻き込まれるだろう。
その時に最後にこの子にとどめを刺すのは、相対する紅い瞳をもった男である。】
とね。

僕は思わず、自分の紅い瞳を隠した

義父

私も最初は信じなかったんだがね。
その占い師は本当に【当たる】んだよ。
今まで彼の占いは外れたことがないらしいじゃないか。
だから私は探した、息子の命を脅かす元凶である紅い瞳の持ち主をね。

漣(幼少期)

ぼ・・・僕は違っ・・・・。

義父

違わないさ。
君ほど紅い瞳の子に私はであったことがない。
・・・それだけじゃない。
君の両親はどちらも紅い瞳を持っていなかったのに君はこんなにも紅い目を持っている。

僕が・・・兄上を殺す相手・・・?
僕が?

僕がっ・・・!?


漣(幼少期)

兄上!
兄上も僕が兄上を殺すだなんて思ってるの!!!???

僕は懇願するこのように兄上に縋りつく

この家でようやく心を開けた相手
その兄上にまで信用されていなかったら僕は・・・・僕は・・・・

馨(幼少期)

うん、ごめんね漣。
俺は殺されるわけにはいかないんだ。




その瞬間、世界が色をなくした
目の前が暗くなった


遠くにかすむ兄上の微笑
複雑な表情の義父



今までの優しさは
全部僕を監視するためだけのもので

全て偽り




全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て・・・・











それから僕は誰も信じなくなった

信用できなくなった




そして今に至る


パーティー、ね。

僕は面倒だと思いながらも、召使が持ってきていた正装に袖を通す


鏡を眺めると、いつまでもメラメラと鈍ることのない輝きを宿す紅い瞳が映る

この目のせいで―・・・この目の・・・!!

僕は自然と力のこもった拳をじっと見つめて、こらえきれなくなった衝動を思わず鏡にぶつける








ガシャン―・・・・・!!!!!!!!!!








はた、はた




細かく傷の入った皮膚から血がにじみ出て、床を汚していく


僕はハッと正気に戻って、慌てて服が汚れないように袖をまくった


使用人

漣坊ちゃま・・・!

音を聞きつけたのか使用人たちが部屋に入ってくる

使用人

何かあったのですか!!!??

ああ・・・、なんでもないよ、うん、なんでもない。
悪いけど包帯だけ持ってきてくれる?





僕はまだ震える手をさらに強く握りしめて、ただそれだけつぶやいた




つづく

その挑戦者陥落につき3

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