亀の恩返し

24.薬を使う。

























そうだ。

なんでも願いをひとつだけ
叶えてくれる魔女の秘薬。

今使わなくて
いつ使うと言うのだろう。

さあ! 願いを!

私は……

乙姫様から太郎さんを奪い返して浜に戻って人間の娘に変身して太郎さんと結婚する!!

……一息に言ったって
ひとつとはカウントされないわよ


魔女は呆れたように溜息をついた。



























































その頃、竜宮城では
相変わらず乙姫と太郎が
いちゃついていた。

ささ、太郎様。お酒はいかが?

ん~、もう腹がタプンタプンだよ


酒も料理も踊りも連日では飽きる。

太郎は少し、漁師の暮らしが
懐かしくなってきていた。



なぁ、乙姫ちゃん
そろそろお暇(いとま)させてもらおうかと、

なにを仰るの?

退屈ならわらわの乳でも揉むかえ?

大人ジョークだねぇ
乙姫ちゃん


そんな時
ふたりしかいないはずの部屋の中で
もうひとりの声が聞こえた。

そこまでだ!!

何奴!?

くらえ!!
弓矢アタ――――ック!!

きゃああああああ!!


娘の放った矢は
乙姫の着物を畳に縫いつけてしまった。

さあ! 今のうちに!!


そして、彼女が怯んだ隙に
娘は太郎の手を掴んで逃げ出した。




え!? ちょっ

急ぐのです!!
































































































あ~びっくりした

ここまで来れば安心です
乙姫様は陸には上がって来られないから……


娘は沖合に目をやった。

追手がどれだけいようと魚類。
海の外には出て来られない。

しばらくは海には出られませんが
乙姫様は飽きっぽい方ですから
追手もすぐにいなくなるでしょう

それでは、私はこれで……

……ちょいとお待ち


立ち去ろうとした娘の手を
太郎が掴む。

で、なぁんでそんな恰好してるのか
聞いてないんだけど


太郎はしげしげと娘を見た。

な、カメ

ええええええええ
な、なん……!!










太郎を助けた娘は
カメの変身した姿だった。







薬が叶える願いはひとつだけ。

カメは人間の娘になることを
願ったのだ。



まぁなんにせよ助かった

乙姫ちゃん、なかなか帰してくれないからさぁ

これでお互いに助けたことになるな

そ、そうですね

太郎を助けられるかどうかは賭けだった。


上手く太郎を連れ出すことが
できたとしても
人間の身で海を泳ぎ切ることが
できるかどうかも賭けだった。


浜に送り届けても
面識のない自分に太郎は
素っ気ないかもしれない。

それどころか
誘拐犯扱いされるかもしれない。


そんなところも賭けだった。





結果としてはよかったものの
決して手放しで喜べるものではない。

で、俺としちゃあ
もてなしてもらったお返しをしてないんだけどさ

……はい?




だが、太郎は違った。


カメの手を掴むと
家に向かってずんずん歩き出す。



あの、太郎さん!?

だからぁ、酒と料理のお返し


太郎はにやりと笑う。

と言っても俺ん家は貧乏だから、チャラになるまで何年かかるかなぁ


どういうことだろう。


太郎さんは私を
家に連れて行こうとしている。


太郎さんはもてなしのお返しを、と
言っているが、元々私を助けてくれたお礼。
太郎さんに返してもらう必要はない。





そうなんだ、けど。

俺さぁ、妹が欲しかったんだよねー

……妹、ははっ

昔っからあるじゃん? 義理の妹とデキちゃう話。
ああいう背徳的なのって良くね?

なななななななにを言い出すのです!!

嘘だよ~ん


乙姫の影響か、
すっかりチャラくなってしまった
太郎を見上げ、



「元の太郎さんに戻そう」と

カメはこっそり
矯正を誓うのであった。















- おわり -

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