亀の恩返し
10.浜へ行く。
私はこっそりと浜へ戻った。
波間から頭だけを出し、耳を澄ます。
子供の声はしない。
ただ
寄せてはかえす波の音が聞こえるだけ。
!
いや。
人の声が聞こえる。
……2人。
男の人の声は太郎さんのものだ。
太郎さ……
向こうから
歩いて来る太郎さんの姿が見えた。
そして
!
太郎さんの隣にはもう1人……
女の人がいた。
彼らは仲睦まじく寄り添って
浜を歩いていく。
時折
砂に足を取られそうになる娘に
太郎さんは手を差し伸べる。
……
ああ、そうだ。
太郎さんだって良い歳だ。
お嫁さんのひとりも
貰ったっておかしくはない。
太郎さんは優しい人だから
きっと幸せな家庭を築くだろう。
あの娘も太郎さんに似合いの
優しそうな娘だ。
……
……お幸せに
これで良かったんだ。
太郎さんは人間で、私はカメ。
生きる世界が違うのはわかっていたこと。
ああ、太郎さん。
どうか
どうか、お幸せに……