教主は笑う。相変わらず花の零れるような笑みだった。
イツキはゆっくりと目を閉じて、その姿を脳裏に焼き付けた。
何のために宗教が存在するのかわからない、と君は言ったね。実のところ、私も長らくわからなかった。
今なら分かったのか
私は人を殺してしまった。人殺しだ。許されない。けれど信者たちは僕にここに居ていいと言ってくれる。私の存在を許してくれるという。それを聞いて気が付いた。もとより私はここに居ること以外に存在を許されてはいないのだと
君がどう思おうとも君の勝手だが、俺が一つ言いたいのは、ここに居たところで君の罪は許されぬということだ。だが君の存在は僕が許す。許している。お前の存在など許されぬということの方が異常よ。お前は頭が良い。まだ若い。もっとこれからいろいろのことに出会わなくてはならない。ここで一生を遂げるなどともう言うな。己の使命を知れ。そのための機会を俺が呉れてやる。その為の旅だ。
何のために生きるのか。くだらない問いだと思わないかい。人間は生まれようと思って生まれるわけではないのに、生まれてしまったからには、何かしら生まれた意味を問いたくなる。そこに意味なぞないのに。自分がどう生きたいかというその意志だけが人生を左右する
お前の意思は一体どこへ向かっている
探したい
あ?
生きる意味を探しながら生きたい
本末転倒ではないか
そう。今際の時に生きる意味を見つけても良い
生きる意味を探しながら生きたい。これが俺の意思だ
成程
どうだ?
どうだもこうだもない。俺に悪い影響を受けすぎたな
はは。間違いない
自分の意思を大切にしろ
そうしようかな
意思は始まりにすぎない。
ふ、
教主は笑う。相変わらず花の零れるような笑みだった。
イツキはゆっくりと目を閉じて、その姿を脳裏に焼き付けた。