ずいぶん若い父君だな。俺と同い年くらいか?

殺気立つ突然の訪問者をイツキは飄々と考察した。いや、そう見えるように振る舞っていた。

確かそのくらいだった気がするね。いやはや、困ったな

イツキに聞こえるくらいの小さな声で、教主は答える。

パパを呼んだのか?偉いぞ、サトリ。それでこそ少年のあるべき姿だと俺は思う

……………ッ

教主様、それは何です?

サトリの父は声を震わせながら問う。
その一言で、この男が感情が極限に振れやすいことにイツキは気付いたに違いない。
なぜなら、イツキ自身がそうだからである。彼は感動するとすぐに泣く。しかしイツキはこの男のように神経質ではない。
恐怖からくる感情の極限状態をイツキはこれまでに知ってこなかった。だからサトリの父である男を、軽蔑した。と同時に煽りたくなった。波風を立てたがるのはこの男の常である。常に安定を憎んだ。

教主は細く息を吐きだすと、若干疲れた顔で男を見上げた。

何…か。さあ、何だろうね。君はどう考える?

俗物です。外患誘致ではないですか

そうだね、俗物だね、それに関しては返す言葉もないかな

開き直るのですか

…………

教主様。いいえ、あえて言いますが、ヒソカ君。

…………何でしょう

もう一度、自分の置かれた立場を考えてみることです。そして役割を与えられることの喜びを思い出しなさい。あなたにしかできないことがあるから、貴方は教主として今ここにいるのです。言葉にせねば分かりませんか?

…………

ヒソカ君

君までそう呼んでくれるなよ

いやスマン。俗物だが、発言をしても良いかね?

……………いいよ。許そう

サトリの親父殿

は?

ヒソカ君は俺の弟子だ

えっ

えっ

ついてはこの村の宗教の教主を辞す。あとは任せた

なりません!教主様がおわさねばこの村がどうなると思っているのですか!

知らん。集団で病むか?

あなた、我らが宗教を愚弄する気ですか!

ゴツ、という鈍い音がした。人が鈍器で殴られた場に居合わせたことのない方なら、想像してほしい。漬け物石を重力に任せて胸あたりから地におとした音である。案外、音が大きい。

ちょっと君、大丈夫かい?!

……死………んではいない

先生!これを殺す気ですか!

ええ、殺します……そも、教主がかような俗物を庇うことなどありえません。その手を放しなさい

いや

もはや貴方は教主たりえない

父さん!?………

願ったり叶ったり、だな………

もう君はいいから喋るなっ………

いいえ、連れてなぞ行かせません。教主たりえぬ者を教主として教育し直すまで。昔と同じです。何も変わりません

サトリ。
父は子の名前を呼ぶ。サトリから父の表情は見えない。

父は、今から汚いお仕事をする。だから目をお伏せ。お前にはまだ早い

お父さん………

ふぅん。良い父親をしているではないか

イツキ君、逃げなさい。あの人は本当に殺しにくるぞ

だろうな。父親って、覚悟決めると恐いよなぁ

危ないと言っている!

サトリ!絶対に目を開けるんじゃない!

澄んだ空気に鉄の匂いが広がった。

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