やはり外の話は良いね。色彩豊かだ

お前も外に行けば良いではないか。実際にみるのとみないのとでは全然違う

はは、そうもいかないよ。私には此処でやるべきことがあるからね

何だ?

信徒たちの心の支えとなることだよ

それはお前以外にもできることだろうに

なかなか辛辣なことを言ってくれるね

事実だろう

事実だね。でも現状彼らは私を中心に生活しているし、私も彼らを中心にしている。求め、求められ、お互いの心の支えとなることがどんなに幸せなことか。君は、何かを信仰してはいないのかい

無宗教だ。そしてそれを誇りに思ってすらいる

愛する人は?

いるともさ

そうか。まぁ私が言いたいのは、自分の存在意義を捨ててまで好奇心に服従しようとは思っていないということだ

それも人生だな

まさしく

お前はいくつになる

10代ももう終わってしまう。昔は神童として崇め奉られていたが、もう童というには薹がたってしまった

私は28になる

いい歳だ

おうとも。よく言われる。それで職業が旅人とは、ともな

いやそういう意味ではないよ

ほう?どういうことだ?

さあ。ただ、何となくいい歳だなと思っただけさ

ふ。お前、28になったところで、今と何も変わらんぞ

そんなものかい?

そんなものさ。期待なぞするな

………期待してしまうよ

………いや、何も

まだいたの

サトリがうろんげにイツキの事をみる。この頃の聖堂生活で気がついたが、サトリは如才ないが、言動にぶっきらぼうなところがある。自分の気持ちを上手く扱えぬ年頃の少年らしく、イツキは好意的に見ている。

ああ。厄介になっている

職業旅人のくせに

おっ、今のは効いたぞ

気持ち悪い

ははは、とイツキは笑う。仔猫がじゃれるかのような罵倒に、心が逸る。サトリはいい子だなと心底思った。イツキにとっていい子とは、自分の気持ちを蔑ろにできない子である。

素直さは財産だぞ、サトリ坊

あのねぇ…!

反駁しようとしたサトリをやんわりと教主が制した。

サトリ。ここのところ森が騒がしいだろう?だからなかなか村人たちの目に付かぬよう、山を降りるのが難しいようでね。彼にも、急いでいないなら機を見て山を下るべきだと私から言っているんだ

ありがたいことだ

教主様、こいつは信者ではないんですよ

知っているよ

甘やかしすぎです。このような奴、そこら辺に転がしておいて、獣にでも食わせれば良い

俺の肉はさぞ旨かろうな

はは。サトリ、私の信者だったら皆平等に扱わねばならないからね。だから、ちょっとくらいもてなし過ぎても良いじゃないか

…………

弱ったな、

おう、サトリ坊。そんな目で見ても、俺は出ていかないぞ?

俗物のくせに………!

サトリは外に飛び出した。そんなところも愛らしいなとイツキは微笑みながらその背中を見守る。転ぶなよ、と心の中で声をかけて、教主に向き直った。

可愛いらしいな、ころころと素直な反応ばかり返ってくる

そうだろう?あれは何にだって一生懸命でね。私もいつも元気をもらってばかりだ

どうやら教主様はあまのじゃくで、不真面目で可愛くないようだからな。逆の魅力を持つものに惹かれるのも当然だろう

とんだ邪推だ

そうか?

そうだとも

ならお前、教主なんかやめてしまえ

それで一緒に旅をしよう

……魅力的なお誘いだが、あまり私を軽んじてくれるなよ

私はこの村唯一の教主なのだ

あー、はいはい

イツキは両手を挙げた。この教主は、時々人を殺しそうな目をする。その瞳の奥を知りたいような、知りたくないような不思議な気持ちだった。

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