ホームレスにも二種類の人間が存在する。
それはホームレスに限ったことではなく、社会の歯車として機能している一般の社会人にも言えることなのだが。
つまり、やる気に満ち溢れている人間と、目標も持たずにだらだら過ごす人間だ。
活気あるホームレスは、毎日サボらず早朝から空き缶を集めたり、各駅を回って雑誌を集めては金に変え、日雇いの仕事もバリバリこなし、決められたシフトでバイトをしたりもする。
そんな人間は可能な限り清潔にしているし、割と綺麗なスーツを着こなしており、一見するとホームレスとはわからないくらいだ。
そういう人間はいつまでもホームレスでいようなどとは考えておらず、社会復帰を目指している。
私はというと、完全にもう一方の人間に落ち着いてしまった。
つまり堕落した人間だ。
普通に会社員として働いていた頃でさえ、生きがいというものを見いだせなかったのだ。
社会の歯車として返り咲くことを目標に設定したところで、困難な割にはあまりにもやり甲斐がないと感じていた。
とはいえ死ぬ勇気すらない私は、今日を明日を生き抜くために最低限お金を稼ぐ必要がある。
とりあえず早朝から近所の駅の周辺にあるゴミ箱を漁って雜誌を拾い集め、雀の涙ほどの金に換えては見たものの、生きる意味という壮大なテーマを考えてしまうと、ものすごく無意味なことに思えてならなかった。
ここ数日、私は駅の近くにある公園のベンチに座り、小一時間ほど何もせずに青い空を見上げていた。
真正面を向けばオフィスビルやファミレスや古本屋などが視界に入る。
それらは人間の住む世界だ。
だが私が座っているベンチからは、真上に顔を向けると偶然にも人工物が一切割り込まず、ただ無数にちぎれた雲が流れる青空だけが視界に広がるのだ。
まるで別世界を覗いているようで、もしかすると素早く顔を正面に戻せば穏やかなファンタジーの世界が広がっているのではないかと思えてくる。