――あぁ、またいつもの夢か。



さっき篠山さんの話を聞いたからなのか、
俺も少し不安になってくる。

だって五感にはリアリティがあって、
夢と現実の世界の区別が
今まで以上に曖昧になっているから。

もしこうして第三者的な視点がなかったら
こっちの世界が現実なんじゃないかって
錯覚するくらいだし。




――本当にこれは夢なのか?

こっちがリアルな世界で、
高校生の俺やあっちの世界こそが
夢なんじゃないのか?


でもそれを証明する手段は……ない……。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

女の子

つかれたね。
宝物、見つからないね。

三崎 凪砂

さがす範囲が広すぎるんだよ。
アイツ、どこに隠したんだろう?

 
 
例の宝探しの途中か……。

この様子だと、だいぶ探したあとみたいだな。


――で、隠した張本人はどこへ行ったんだ?

少しはヒントくらい出してやらないと
さすがに厳しいと思うが……。
 
 

三崎 凪砂

お腹すいたな……。

女の子

じゃ、アメをあげる。
はいっ。

 
 
女の子は小さなポシェットの中から
小袋に入った飴玉を取り出し、
俺に握らせてくる。


――柔らかな手の感触と温かさ。

それを感じた瞬間、
なんだかドキッとしてしまう。
 
 

三崎 凪砂

いいの?

女の子

私だけ食べるのは不公平だもん。
それにミルク味、
なーちゃん好きでしょ?
だからいつも持ち歩いてるんだ。

三崎 凪砂

えっ?

 
 
――胸騒ぎがして落ち着かない。

つい最近、
似たようなフレーズをあの人の口から
何回か聞いたことがあるから。


いや、そんなまさか……。
 
 

女の子

どうしたの? ボーッとして?

三崎 凪砂

あっ! な、なんでもないっ!
えっと、“俺”の好きな味、
覚えてたんだ?

 
 
俺は動揺を抑えつつ、慌てて話題を逸らす。


――っていうか、
今の俺の意思が夢の中の俺にも
反映されつつあるのかっ!?

ある程度、感情が出ているみたいだし。
 
 

女の子

当たり前だよ、えっへん!
だって私は将来、
なーちゃんのおヨメさんに
なるんだもん。

女の子

私はずっとずっと
なーちゃんのこと、
好きでいるから。

 
 
正面からそんなことを言われると照れる。


『love』ではなく『like』の意味だとしても
純真な心で好きと言われたら悪い気はしない。

それに最初は『like』だとしても
いつかは『love』に変わることだって
たくさんあると思う。



――そしてそれは一瞬の想い。

変化するというのは、そういう意味でもある。
でも一瞬もずっと続けば永遠になる。


一瞬で永遠。それが想い……。
 
 

三崎 凪砂

でもさ、そういうの、
ヤンデレとかストーカーって
いうんだぜ?

女の子

違うよ、一途っていうんだよっ!

三崎 凪砂

あっはは! なるほどね!

女の子

なーちゃん?
さっきから変な言葉遣いだね?

三崎 凪砂

あれ? 完全に俺の意思で
喋れてる!? 
それならもしかしたら――

三崎 凪砂

なんでもないよっ!
ところで聞きたいことが
あるんだけど。

女の子

なぁに?

三崎 凪砂

キミって名前、なんだっけ?

女の子

覚えてないのぉ?

三崎 凪砂

いやいやっ、ほらっ、
あだ名で呼んでるじゃん?
だから、ど忘れしちゃって!

女の子

う……うぅ……。
なんでそんな嘘つくの?
あだ名なんかで呼んでないのに。

三崎 凪砂

そ、そうだっけっ!?

女の子

いつも『菜美』って
名前で呼んでくれてるのに……。

三崎 凪砂

え……。

 
 
なんだ、これ……。
胸のざわめきが止まらない。


菜美……だって……?
 
 

女の子

あーっ、そっか! 分かった!

 
 
突然、女の子は眉を開いてパチッと手を叩いた。

瞳に溜めていた涙もピタリと止まっている。
どうしたんだ?
 
 

女の子

それ、あだ名じゃなくて、
名字っていうんだよ!

三崎 凪砂

……え?

篠山 菜美

名字は『ささやま』だよ。
漢字だと読み方が難しいもんね。

篠山 菜美

でも将来は三崎菜美になるから
すごく読みやすくなるねっ!

三崎 凪砂

っ!?

 
 
う……そ……だろ……。


篠山菜美って、
バス停で出会って一緒に探し物をしていた
あの子と同姓同名じゃないか……。



別人って可能性もゼロじゃないけど、
直感的にそれはないような気がする。

飴の好みとか不公平って言葉、
髪だって伸ばして顔つきを大人っぽくすれば
あの子にそっくりだ。




――確か彼女は生まれも育ちも
矢形市だって言っていた。

つまり俺も昔、ここに住んでいたってことか?
 
 

三崎 凪砂

落ち着け、俺……。
もう少し情報を聞き出すんだ……。

三崎 凪砂

あ、あのさ、
しーちゃんのことなんだけど。

篠山 菜美

その呼び方、なんか変。

三崎 凪砂

どうして?

篠山 菜美

だっていつもなーちゃんは、
しーちゃんのこと『しほ』って
名前で呼んでるから。

三崎 凪砂

なっ!? 
アイツ、女の子だったのっ!?

篠山 菜美

当たり前だよ。
男の子っぽく見えるけど、
しーちゃんは女の子だよ。

三崎 凪砂

詩穂ってまさか……まさかッ!?

三崎 凪砂

し、詩穂って名字は若田?

 
 
無意識のうちに俺は声が震えていた。
呼吸も乱れて息苦しい。
寒気がして、全身に鳥肌が立っている。




なんだよ……これ……なんなんだよ……っ!?
 
 

篠山 菜美

そうだよ。
おじさんは漁師をしていて
家は民宿なの。

 
 
 
 
 
 
 
 

三崎 凪砂

あ……あぁ……。

 
 
俺の頭の中は瞬時に真っ白になっていった。


世界が大きく揺れる。
空間が歪んで融けていく……夢が……。
全てが……薄まっていく……。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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