翌日、僕はシンディさんの指示する薬を
作ることになった。



今、指示された通りに調薬をしているけど、
どれも初めて見る材料ばかり。
しかも今までに経験したことのない製法だ。

といっても、
基本的な調薬方法は珍しいものじゃない。
とある点だけが特殊なのだ。



――重要な要因となっているのが、
材料を混ぜる順番と
それらを加えるタイミング。

分量の精度が要求される薬の調薬なら
慣れているんだけどね……。



でもこちらのタイプの調薬も
コツさえ掴めばそんなに難しくはない。

実際、うまく調薬できたみたいだし。
 
 

トーヤ

できましたぁっ!

シンディ

ま、まさか成功させるなんて
信じられない……。

 
 
シンディさんは薬を見て目を丸くしていた。

まるで起こりえないことが起きたかのような
そんな感じ。


でもこの程度の調薬なら、
ちょっと練習すれば
誰でもできると思うんだけど……。
 
 

シンディ

何者なの、トーヤ?

トーヤ

僕は駆け出しの薬草師ですよ。

シンディ

駆け出しの薬草師では
成功確率ほぼゼロの
難しい調薬なんだけど……。

トーヤ

そうなんですか?

シンディ

手際も申し分ないわ。
トーヤには薬草師としての
天性の才能があるのかも。

トーヤ

そんな、買いかぶりですよ。
きっと僕の師匠の教え方が
うまかったんだと思いますよ。

シンディ

でもこれならギーマ先生の
お眼鏡にかなったというのも
納得がいくわ。

トーヤ

ギーマ老師に調薬する姿は
披露していないんだけど……。

トーヤ

ところでこの薬には
どんな効果があるんですか?

シンディ

自己治癒能力を
極限にまで高めることができる。
瀕死の重傷や病気でも
助かる可能性が上がるわ。

トーヤ

ということは、
使えない場合もありますね。
ある程度の基礎体力がないと
肉体が耐えられないでしょうし。

 
 
僕の言葉を聞いて、
シンディさんは小さく息を呑んだ。

そして真っ直ぐにこちらを見つめてくる。
 
 

シンディ

ほかにリスクは思いつく?

トーヤ

えっと、寿命を削るでしょうね。
魔力の流れにも影響が出るので
うまく制御できなくなったり
使えなくなったりするかも。

シンディ

合格よ。
この薬はナイコトキシン。
私はそう呼んでいる。

シンディ

もし使うことがあるなら
それを注意しなさい。
くれぐれも乱用は避けるように。

トーヤ

はい。薬が原因で体に支障が出たら
本末転倒ですもんね。

シンディ

それが分かっているのなら安心ね。

トーヤ

それじゃ、魔力熱の薬の製法を
教えていただけますね?

 
 
意気揚々と問いかけると、
シンディさんはニタッと怪しく微笑んだ。



――な、なんなの、この笑みは?

まさか『やっぱり教えてあげない』なんて
言わないよね?
 
 

シンディ

ふふ、もう教えたようなものよ。

トーヤ

えっ?

シンディ

今の薬にポイズンニードルの毒を
微量ずつ慎重に混ぜていきなさい。
色が変化するかしないかの境が
目印になっているわ。

トーヤ

加える量は
決まっていないんですか?

シンディ

有効成分の含有量には
個体差があるの。
それに刻一刻と
毒素は分解していく。

シンディ

だから調薬の段階にならないと
分からないのよ。

トーヤ

そういうことですか。

シンディ

そうした見極めをするのも
薬草師の仕事よ。

シンディ

少しでも量を間違えると
効果が出ないわ。
調薬の際には慎重にね。

トーヤ

はいっ!

 
 

 
 
僕はシンディさんから力強く肩を叩かれた。


そうだ、僕にはシンディさんだけじゃなく
ミーシャさんや魔力熱に苦しむ人たちの
運命も背負っているんだ。



――絶対に失敗できない!
 
 

シンディ

トーヤ、少し力を抜きなさい。
深刻になり過ぎよ。

トーヤ

えっ?

シンディ

過度の緊張状態が続くのは、
調薬にとって良くない。

シンディ

調薬には集中力と感覚を
最高潮に高めなければならない
その一瞬だけ全ての力を
爆発させなさい。

トーヤ

は、はいっ!

シンディ

ところで、ずっとトーヤに
聞きたいことがあったんだけど。

トーヤ

なんですか?

シンディ

あなたから魔法力を感じないの。
もしかして物理攻撃特化型とか、
そういう特殊体質?

トーヤ

てはは……。
実は僕、元・下民なんです。
だから魔法が使えないどころか
力も体力もあまりなくて……。

シンディ

っ!?

シンディ

そんなのありえないっ!
もしそうだとしたら、
こうして施療院の中にいて
平気でいられるわけがないのよっ?

 
 
シンディさんは大きく取り乱していた。

唇を震わせながら瞳を激しく動かし、
落ち着きなく顔を左右に動かしている。


ナイコトキシンの調薬に成功した時だって
ここまで驚かなかったのに、
どうしたというんだろう?
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第59幕 キミは駆け出し薬草師?

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