翌日。綾瀬と昨日のカフェで再び出会うやいなや、問答無用で彼女の前に座り、開口一番そう言った。
結論から言おうか
翌日。綾瀬と昨日のカフェで再び出会うやいなや、問答無用で彼女の前に座り、開口一番そう言った。
丸いテーブルの上に用意されているのは3人分の食事。
僕から向かって右の方から、トマトとハムとチーズが入った……トースト? だろうか。
パクチーらしきものが浮かんでいて好みが別れそうな麺料理。
そしてご飯が日本人が大好きな白米じゃなく、怪しげな黄色い米のカレーライス。
取り敢えずそれらの食事を一通り見て、僕は彼女に言った。
3時間も1人でカフェにいて全く会えなかったよ僕の時間を返せ!!
キャラに似合わずついつい怒鳴ってしまった。だけどそうであろう。男の子が、それも1人でコーヒーとケーキを食べまくるだなんて、かなり女子力を秘めた男ではないか。
残念ながら僕にはカフェ巡りみたいな可愛らしい趣味はなかったし、生憎とケーキを5個も10個も食べ続けるお金もなかった。
それでもまあ時間でコーヒー6杯とケーキ4個を食したのだが……
とまあ怒鳴ってはみたけれどそれで時間が本当に返ってくるわけでもないし、この気持ちは美味しそうな朝ご飯を食すことで紛らわせよう
そう言って僕が手を伸ばした時だった。
フォーーーッッ!!
綾瀬がそんな奇声をあげながら、パクチー好きの僕が麺料理に伸ばした手をはたいてきた。
……
僕がこんな憐れむような目をしてしまっても、それは仕方のないことだろう。一瞬ではなく、確実に10秒は時間が止まっていた。
おい綾瀬。お前、ついに壊れたのか?
僕の問いに、しかし綾瀬はこう答えた。
ん? ああいやみーくん。私は壊れてなどいないさ。みーくんが手を伸ばしたその料理の名前が『フォー』っていうんだよ
運動バカの綾瀬にしてはの知識であった。
まあそれと僕が叩かれるのとは全く関係がないように思えるのだが。
へえー、そうなのか。面白い名前だな。なら綾瀬。何でこの料理はフォーって言うんだ?
意外と物知りな綾瀬に僕はそんな質問をした。
そんなの決まっているだろう。これを食べていたベトナム人が「フォーー!」と叫びながら食べていたからだ
僕たち以外誰もいないカフェに綾瀬の悲しい声が響き渡った。この場に僕たちだけで本当に良かったと、僕はそっと胸を撫で下ろす。
くすくすと小さな声が聞こえて見ると、カフェの店員さんが笑っていたがそれは見なかったことにしよう。
まあなんだ、次行ってみよう。この薄いトーストみたいなのは何て料理なんだ綾瀬?
これか? これはガレットという、フランスでよく好まれる家庭料理だ。別名「そば粉のクレープ」とも言うな
なんと!? クレープが大好きな僕にはうってつけの食べ物じゃないか。早速頂いてみよう!
そう言って僕はまた、今度はそのガレットとかいう魅力的な食べ物に手を伸ばした。
待ったみーくん
そんな僕の腕をまたまたひっぱたいて、綾瀬は人差し指を立ててこう言ったのだ。
別に親友のみーくんに分けることは構わないのだが、それじゃ面白くない。ここは1つ、面白い小話勝負といこうじゃないか!
こいつはいつもその場のノリで生きているのだろうか。
何だよそれ? ちょっとお前、先にお手本を見せてくれよ
まあ暇だったので乗ってやることにしたのだが。
僕がそう提案すると、綾瀬は得意そうに語り始める。
そうだな。ではこの話にしよう。これは私がジョギング途中で立ち寄った電気屋さんでの話しなのだが
お前はいつもジョギングしているな
ははっ。人生の3分の5はジョギングをしているぞ!
お前には影分身でもいるのかよ!!
やはり彼女はただの馬鹿なのかもしれない。
まあ聞いてくれ。電気屋さんってのは大抵マッサージチェアなんかが置いてあるだろう? だから私も疲れた体にちょうどいいと思って、近くにあったランニングマシーンをだな
何故そこでまた運動するんだよ!?
え? 何故ってそりゃ、身体を疲れさせるためだよ。その方がより気持ちよく感じるとは思わないか?
きょとんとした顔で綾瀬は言った。そして僕は気付く。この少女と会話をしようと思うこと自体が無駄なのだ。無駄で間違いなのだ。
もう突っ込まない。聞きに徹しよう
だから僕は考えることを放棄した。
それでだな。ひとっ走りしたところでマッサージチェアのところに行ってみると、2つ置いてある内の1つはおじいさんが座っていたんだよ。だから私は隣の椅子に座って、それからリモコンを手に心を躍らせていたんだ
……
そしていざスタートボタンを押したんだけど、残念なことに私のマッサージチェアは微動だにしなかったんだ。隣のおじいさんが「おぉー」とか「ああ~」とか言ってて気持ち良さそうなのが余計に悔しくてな。何度もボタンを連打したんだがそれでも動かないんだ
……
何度ボタンを押しても動かないから、いい加減私も諦めだして、もういいやって席を立ったんだ。そこでさ。私は見てしまったんだよ。気付いてしまったんだよ
……もぐもぐ……
前後左右上下全方向に体を激しく揺さぶられる生き絶え絶えなおじいさんがそこにはいた
ぶっ!
思わず吹き出してしまった。話を聞きながら食べていたガレットも一緒に。
まあ種を明かせば、私が持っていたのはおじいさんが座っていた椅子のリモコンで、私がしきりに『強』のボタンを連打しておじいさんを揺らしていた、というわけだな。ってみーくん。何を黙って私のガレットを食べているんだ!?
そんな文句を聞いているどころではなく噴き出したガレットを拾い口を拭いていた僕に、彼女はいきなり提案した。
じゃあ次はみーくんの番だぞ
嫌だ
単純にそう思った僕は瞬時に妙案を思いつく。
そうだ、読者さんに助けてもらおう
いつも勝手にそう言って、いつも結局叶わないアイデア。しかし僕はそう心に決め、わずかな可能性に期待するのだった。
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ここでは初めまして。ぞこです。またの名を、らむ猫です。書き物初心者でついでに大学の講義も始まって、なかなかすらすらとは書けないですね。そんな中でも最低週2のペースで続けていきたいと思っています。
さらに今回から、お話の最後に作者のコメントみたいなものも付けてみることにしました。もうすでに10話ほど続けて思ったことは、少しでも読んでくれている人がいてくれて嬉しい! ということと、その読者さんと絡みたい! ってことです。
白石未筝のクイズもぜひ協力してほしいな
ですがちょっと小恥ずかしいのもあり、クイズを出したり都大樹くんに代わりに言ってもらったり、地味に交流を持とうとしていましたが、ついに寂しさを我慢できず、自らここまで乗り込んでしまいました(笑)
僕だって恥ずかしかったんだからな。もっと格好いいシーンを増やしてくれよ
ちょっとこの話を覗いてみた方、1話から読み続けてくれた方、ありがとうございます! お気に入りまでしてくれた方、嬉しさと感謝で胸がいっぱいです!!
私はもちろんお気に入りしているぞ!
クイズの答えや感想、もちろん誤字脱字やアドバイスでも何でもいいのでコメントお待ちしています。
まずは私の魅力についてとか?
少しでも皆さんと絡むことができたらなと、気長にお待ちしています☆
ちなみに、ムネ物語は本編とは関係ないエイプリールフールネタですよ
それでは、長くなりましたが、このあたりで失礼します。
また次回、お会いできれば何よりです。
これからもどうぞよろしくお願いします!!