――またいつもの夢を見ていた。


どうやら俺は食事を終えて部屋に戻ったあと
すぐに眠りに落ちたらしい。
だって布団の上に横になった記憶がないから。





幼いころの俺と、見知らぬ友達。
でも今回はいつもと何かが違う。

そうだ、五感がいつも以上に敏感なんだ……。





潮の香り――
これは間違いなく富須磨海岸のものだ。

そんな微妙な差なんて分かるはずないのに、
なぜか分かる。
夢だからこその補正がかかっているのかな?



場面は男の子が宝探しをしようと
誘ってきた時の続きらしい……。
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

三崎 凪砂

強引なやつだな……。

男の子

いいじゃん。
いつものことだろ?

三崎 凪砂

開き直るなよ……。

男の子

ほら、さっさと宝物を出せ。

三崎 凪砂

そうは言っても
僕は何も持ってないぞ?

女の子

じゃ、私の宝物を貸してあげる。

 
 
女の子は持っていた瓶を俺に差し出した。

中にはきれいな――じゃなくて、
かわいい貝殻がたくさん入っている。


これだけ集めるには、苦労しただろうな……。
 
 

三崎 凪砂

それは××ちゃんが
大切にしているものでしょ。

 
 
――くそっ、名前の部分だけ聞き取れない。

そこが一番重要なのに、なんでなんだ?
自分の夢なのに
自分の思い通りにならないのがもどかしい。



あるいは俺自身が無意識のうちに
聞き取れない振りをしているだけなのか?
 
 

女の子

だから一緒に探そ。
しーちゃん、それでいいよね?

男の子

よし、オッケーだ!

 
 
返事をしたということは、
男の子は『しーちゃん』っていうんだな。

あだ名ならすんなり聞き取れるのか……。
 
 

男の子

10分後に捜索開始な。

三崎 凪砂

うん、分かった。

 
 

 
 
男の子は瓶を持って砂浜の方へ駆けていった。


それから程なくして、俺は探しに行く気になる。
感覚としては10分なんて全然経っていないけど、
夢の中の世界では経過したのだろう。


どうせ夢だ、その辺は曖昧なんだろうな。
 
 

三崎 凪砂

そろそろ時間だ。
探しに行こう。

女の子

…………。

 
 
そう俺が声を掛けても、
女の子はその場から動こうとしなかった。

頬を膨らませながら俺を睨んでいる。
 
 

三崎 凪砂

どうしたの? 行かないの?

女の子

……手。

三崎 凪砂

手がどうかした?

女の子

手……繋いでほしい……。

三崎 凪砂

なんだそんなことかぁ♪
ほらっ!

 
 

 
 

女の子

えへへへっ!

 
 

 
 
――直後、世界が白い光に包まれて揺らいだ。

すると五感が瞬間的にぼやけ、
すぐにまた敏感さを取り戻す。


ただし、感覚の全てはリセットされたように
前後で大きく異なっている。
例えば、手を繋いでいた感触は消えているし、
潮の香りは微々たるものとなっている。




きっとこれは
夢の世界から現実の世界への切り替わり――。
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
目を開けると、部屋の中は真っ暗だった。


俺はポケットからスマホを取り出し、
時間を確認しようとディスプレイを見てみる。

――時刻は午前1時43分。夜明けにはほど遠い。
 
 

三崎 凪砂

ん~っ!

 
 
俺は大きく伸びをしたあと、
起き上がってなんとなく窓から外を眺めた。



民家の灯りはほとんど消えている。

所々に設置されている道路の街灯だけが
暗闇に浮かび上がって見えた。

空は曇っているのか、月も星も見えない。
 
 
 

 
 

三崎 凪砂

っ!?

 
 
暗闇の中で何かが動いたような気がした。
目を凝らしてみると、
路地を誰かが歩いているようだ。


程なくその人物は街灯の下に差しかかり、
俺はハッキリとその姿を捉える。
 
 

篠山 菜美

…………。

三崎 凪砂

篠山さんだ!

三崎 凪砂

こんな時間にどこへ行くんだ?

 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
俺は音を立てないように部屋を抜け出し、
急いで篠山さんを追いかけた。


なんでそんなことをしたのか、
俺にも分からない。
でも追いかけなきゃいけないような
気がしたから。


一歩間違えればストーカーだよな……。
 
 

三崎 凪砂

篠山さんっ!

篠山 菜美

あ……三崎くん。
どうしたんです?

三崎 凪砂

それは俺のセリフだよ。
窓から篠山さんの姿が見えたから
気になって降りてきたんだ。
どこへ行くの?

篠山 菜美

探し物の続きです。

三崎 凪砂

こんな夜中にっ!?

篠山 菜美

眠れない……というか……
眠りたくないので……。

三崎 凪砂

何か不都合なことでもあるの?

篠山 菜美

眠ると夢を見ます。
私は夢を見るのが
あまり好きではないので。

篠山 菜美

こちらの世界に慣れてしまったので
夢の世界へ行くことに
少し恐怖と戸惑いがあるのです。

三崎 凪砂

い、言っている意味が
よく分からないんだけど?

 
 
やっぱり篠山さんは変わってる。


こちらの世界とか夢の世界とか、
そんなマンガみたいな話をされてもなぁ。

実は私、異世界からやってきたんです――とか
打ち明けられちゃったらどうしよう?



さすがにそれはないか……。
 
 

篠山 菜美

三崎くんは知っていますか?
夢って起きていた時の記憶を
整理整頓する過程で
脳が見せるものだって。

三崎 凪砂

なんとなく聞いたことがあるかも。

篠山 菜美

学術的には
そうなのかもしれません。
でも私、おばあちゃんから
聞いたことがあるんです。
夢は2つの世界が重なった場所だと。

三崎 凪砂

2つの世界?

篠山 菜美

あの世とこの世です。
それらの境界が
曖昧になっている場所が夢。

篠山 菜美

死の直前、
お花畑が見えるとか聞きませんか?
あれもそのせいらしいです。

三崎 凪砂

どうなんだろうね……。
俺にはよく分からないや。

篠山 菜美

でも私、最近はそれも少し
違うんじゃないかって
思い始めているんです。

篠山 菜美

あの世もこの世も
ないんじゃないかって。

三崎 凪砂

え?

 
 
あの世もこの世もないって、どういう意味?
だとすると、夢の世界ってなんなの?


なんかこの答えには、
重要な意味があるような気がする……。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第11片 曖昧な2つの世界

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