僕は倒れてしまったミーシャさんを背負い、
なんとか病室へ戻った。

すると事態を聞きつけたシンディさんたちが
すぐにやってきて彼女の治療をしてくれた。


おかげでミーシャさんの症状は
なんとか落ち着いたけど、
依然として意識は戻らないままでいる。
 
 

シンディ

とりあえず症状は安定したわ。
予断を許さない状況では
あるけどね。

トーヤ

…………。

シンディ

トーヤ、何があったのか、
詳しく状況を教えてもらえる?

トーヤ

はい……。

 
 
僕はシンディさんに起きたことを全て話した。

ケンカした経緯や屋上で仲直りしたことなど、
できるだけ詳細に。


それを聞き終わったシンディさんは、
小さくため息をつく。
 
 

シンディ

なるほど、
ミーシャがなぜ倒れたのか、
なんとなく原因は分かったわ。

トーヤ

えっ?

シンディ

少しは私にも原因があるわね。
明確に伝えておくべきだった。

トーヤ

どういうことですか?

シンディ

ミーシャは屋上に出たでしょう?
魔力熱の患者には『外に出るな』と
言ってあるんだけど、
屋上がダメとは言ってなかったの。

カレン

確かに屋上って外ですけど、
建物内と解釈することも
できますもんね。

 
 
カレンの言葉に、
シンディさんは頭を抱えながら頷いた。



――でもなぜ外へ出たらいけないんだろう?


病室ではあんなに元気に過ごしていたのに。

もし日に当たるのがマズイのなら、
窓がある病室にいるのはおかしい。


空気だって出入りをしているしなぁ……。
 
 

セーラ

あのあのぉ、
なぜミーシャさんたちは
外に出てはいけないんですかぁ?

トーヤ

セーラさんも僕と同じ疑問を
持っていたみたいだ。

シンディ

魔力熱の患者だからよ。

セーラ

どういうことですかぁ?

シンディ

魔力熱はエンネツカという
蚊が媒介する病気なの。
エンネツカはこの地域の固有種で、
ほかの地方では見られない。

トーヤ

固有種ですか……。
どうりで聞いたことが
ないわけです。

シンディ

エンネツカはこの砂漠以外では
繁殖どころか生息すらできないの。
生態はまだ研究が進んでいなくて
多くのことが分かっていない。

カレン

そういえば、
町に多くの水路がありましたよね?
あれが発生源ってことでは?

シンディ

私もそう考えているわ。

セーラ

だったら水路を埋めましょ~!
それなら病気はこれ以上、
広がらないはずなのですぅ!

 
 
――うん、セーラさんの言う通りだ。

あとは患者さんを隔離して治療をおこなえば、
二次感染も防ぐことができる。

まずは原因を根本から絶つのが大事だもんね。


でもなぜかシンディさんとライカさんは
暗い顔をしている。
つまりそれができない事情があるのかもなぁ。
 
 

シンディ

水路は市民生活に密着していて
今さら全てなくすことはできない。
市長に進言しても却下されたわ。

セーラ

はわわぁ……。

カレン

病気の発生源が分かっているのに
何もできないなんて……。

ライカ

井戸が掘れたり
水の魔法が使えたりできれば
すぐにでも水路を
なくせるんでしょうけどね。

トーヤ

あ……。

 
 
そっか、この地域では水系の魔法が使えない。

しかも砂漠地帯だから井戸を掘っても
水が出るとは限らない。

ほかの水源から地下水路で
水を引き込もうにもここは砂漠のど真ん中。
それは難しいだろうな……。


それに水の蒸発によって町の気温の上昇が
抑えられているとも聞いている。
水路をなくすのはおそらく無理だ。
 
 

カレン

この土地の特殊な事情が
あるわけですね……。

シンディ

発生源がなくせない以上、
病気に対する薬や
治療法を確立するしかないわ。
私はその研究をしているの。

トーヤ

そうだったんですか……。
それで、魔力熱の患者さんが
外に出てはいけない理由って
何なんですか?

シンディ

厳密に言えば、
外へ出ることは可能よ。
ただし、
そう簡単にはいかないのよ。

トーヤ

どういうことです?

シンディ

魔力熱は蚊が媒介する病気だって
説明したわよね。
そして罹患者(りかんしゃ)は
真っ先にエンネツカの標的になる。

シンディ

きっと罹患者から
特有のフェロモンみたいなものが
出ているんでしょう。

セーラ

りかんしゃ?

トーヤ

病気にかかった人のことです。

セーラ

なるほどぉ!

シンディ

罹患者がエンネツカに刺されると
高熱が出てしまうの。
一種のアレルギー反応ね。
最悪の場合、死に至るわ。

 
 
シンディさんは声も表情も重苦しかった。
その瞳は今だ意識の戻らない
ミーシャさんに向けられている。


――そっか、ミーシャさんも
今回は運が良かっただけで、
もしかしたら亡くなっていたかもしれないんだ。

胸が締め付けられる想いがする……。
 
 

シンディ

エンネツカの侵入を防ぐため
病棟には魔力液から生成した
殺虫剤が噴霧してあるの。
だから建物内にいる限り安全よ。

ライカ

きっとミーシャさんは
屋上に出ている時に
刺されてしまったのね。

トーヤ

そういうことだったんですか……。

シンディ

この土地に長くいる人ほど、
強い魔力のある人ほど
魔力熱にかかりやすい。

シンディ

だからあなたたちが
すぐに旅立つよう
最初は冷たく当たったの。
ごめんなさい……。

トーヤ

でもそれならなぜ、
そのあとに僕たちを
受け入れてくれたんです?

シンディ

ギーマ先生の弟子候補だと
分かったからよ。
きっと先生はこの現状を
見せたかったんだと思うから。

シンディ

それと私の調薬技術を
勉強させたかったんでしょう。

トーヤ

ギーマ老師をご存知なんですか?

シンディ

私の師匠よ。
世界には先生の直弟子が
何人かいる。
私はそのうちの1人なの。

カレン

えぇっ!?

 
 
――驚きの事実だった。

まさかシンディさんが
ギーマ老師の直弟子だったなんて。


でもそれならサンドパークへ行ってみろと
言われたことに納得もいく。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第57幕 魔力熱の原因とシンディの正体

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