3日。

僕が彼女を見つけるまでにかかった時間だ。

白石 未筝

誰だね君は? 未筝お姉さんに何か用かね?

白石未筝(しらいし みこと)。教育学部所属の1年生だ。

都 大樹

お姉さんと言う風には見えないんだけど……

白石 未筝

む~。君も私を子供子供と馬鹿にするんだね!!

そう言って怒る姿も十分に子供なのだが、大人な僕はそんな子供をいじめるような趣味はない。

大学でのキャンパスライフを1人で送ることとなった僕は、今までの講義を全てサボってあらゆる講義に顔を出し続けた。

顔を出し続けたというよりは、中を覗いて人探しをしては次の教室へ、といった感じだ。教育学部だと知っていたのですぐに見つかるだろうと、僕は白石探しを始めたのだ。

けれどもそんなことはなく、見つけ出すのに3日もかかってしまった。そもそも彼女が教育学部ということは知っていたのだけれど、コースの方は知らなかった。コースと言うと分かりにくいかもしれないので簡単に言うと、国語科とか数学科とか、中高教育なのか小学校教育なのかとか、そんな情報を一切知らなかったのだ。

教育学部というくくりにはざっと1000人以上はいる。そんな中から探せるはずもない。3日目にしてようやくその過酷さに気が付いた僕は、食堂で学食を食べている時偶然隣にいた人に聞いてみた。

都 大樹

すまない。教育学部の白石未筝という女の子を知らないだろうか?

それでもやっぱり簡単には見つからなかった。20人目になろうかと言うときに僕は一言加えてみたのだ。

都 大樹

見た目完全に子供なのに自分で「お姉さん」って言ってる人なんだけど……

即当たりだった。『あ、その人なら知ってる。へー白石って名前だったんだ』と、少々悲しい台詞も聞こえてきたが聞かなかったことにしておこう。

白石 未筝

てか君、教育学部じゃないみたいだけれど、自分の講義はどうしたんだい?

会ってそうそう言われた言葉に僕は答えた。

都 大樹

全部サボった

白石 未筝

あー、ふむふむなるほど。不良くんに未筝は……お姉さんはナンパされちゃったのかあ……

自分のことを名前呼びとか思いっきり子供じゃねーかっ! 

なんて言葉は口にしない。僕は立派な大人なのである。

都 大樹

いやまあ、出ても意味がないから……

意味がない。その言葉通り、文字通り。僕は講義に出ても意味がないのだ。

白石 未筝

不良の上に冷たいんだなあ……ナンパのくだりを完全無視だなんて、お姉さん傷付いた……

何ともめんどくさい女である。ならば言ってやろう。お望み通りに正直な気持ちを。

都 大樹

そんなちっちゃなおっぱいに僕は全然興味がないわけがないっ!!

白石 未筝

お前ぇ~。私のおっぱいを馬鹿にしたな!! ゆるさないぞ~

大声で叫んでやった。
当然、周りにいた者たちも僕たちに視線を向けた。ひそひそと小声で話し始める者。あからさまに変な目で僕たちを見る者。ポカーンとあっけにとられてその場に立ち尽くす者。

そして彼女は、叫んでいた。

白石 未筝

うわああああああん!! 会って間もない男の子に未筝のおっぱい馬鹿にされた~!

その言葉にさらなる注目を集めていることに気付かない彼女。

白石 未筝

ひぐ。えっぐ。ん~~……ん?

と。そこで彼女はそんな間の抜けた声を上げた。

白石 未筝

あれ、あれれ? よく考えると未筝、もしかして馬鹿にされてない? むしろ魅力があると褒められているのかな!?

しまいにはもうでたらめ言いまくっていた。

白石 未筝

ねえ、さっきの台詞もう1回言ってもらえる?

自ら過酷な道を選ぶとは、何て馬鹿なのだろう。そんな可哀想な彼女の要望に応えるべく、僕はさっきよりもさらに大きな声で繰り返した。

都 大樹

そんなちっちゃなおっぱいに僕は全然興味がないわけがないっっ!!!!

白石 未筝

あ、やっぱり。褒められてる!!

都 大樹

なっ……

どうやら馬鹿なのは僕だったようだ。

白石 未筝

というか君さ、さっきから大声でそんな恥ずかしい台詞を履いちゃってるけれど、もうちょっと抑えたりした方がいいんじゃない?

自分の胸にも需要があると喜んだ彼女は、表情を一変させ僕に言った。

その台詞にやはり僕はこう答えるのだ。

都 大樹

ああ、大丈夫だよ。いくら気味悪がられようが、どんな気配りをしようが僕には全部無意味だから

白石 未筝

また、無意味ねぇ…

都 大樹

そう意味がない

あの出来事を思い出して、あの2日間を体験して。これから先の全てが僕には無駄なのだと知った。意味がないのだと知らされた。

白石 未筝

ところで君は、未筝と話がしたくて、未筝と友達になりたくて講義が終わるまで待っていたんだよね?

そんな僕に、彼女は僕が求めた、彼女を探した理由へと話を戻した。

都 大樹

ああ、そうだけど

白石 未筝

ならばこうしよう無駄無駄くん!

都 大樹

僕はそんな悲しい名前じゃないぞ!!

白石 未筝

ははっ。牛の角が消える時間に、中に糸が入った樽がある場所で待っているよ

都 大樹

覚えてはいないけど、どこかできたような台詞だな……

それは多分、嘘の物語で。

白石 未筝

講義に出る必要もない位に偉いんだ、こんなものは簡単だろう?

都 大樹

いや、まったく意味が分からないんだが……

白石 未筝

しょうがないなぁ。大人な未筝お姉さんが可哀想な君にヒントをあげよう

都 大樹

何処が大人だ。君の胸は永遠に子供のままだよ

白石 未筝

あ~お姉さん用事があるんだった。もう行かないと。それじゃあねー

都 大樹

すいません未筝お姉さま大人な未筝お姉さま子供であるこの僕に大人の立場からの寛大なるお慈悲をどうかお恵み下さいっ!!!

即座に全力の土下座なのだった。

白石 未筝

もう、しょうがないなあ子供なんだから。大人なお姉さんが許して進ぜよう

子供の様にちょろかった。

白石 未筝

牛は角が消えるとその時間帯だけ別の動物になるんだ。ただし、牛は牛でも、前でも後ろでもない、正しい牛なんだけれどね

最後に、彼女は笑って去って行った。

白石 未筝

3日だけチャンスをあげる。見事会えたら話と名前を聞いてあげるよ。もちろん友達にもなるし、お姉さんの秘密の嗜みも教えてあげよう

さて、彼女が去って取り残された僕であるが、やることは1つだ。

都 大樹

助けてくださいお願いします!!

ああそうだよ。分からないよ。まあ考えるつもりもなかったけど。きっと読者さんが助けてくれるのではないか。

都 大樹

まあ僕はそれまで手当たり次第にいろんな所を探しまくるから。何か気付いたことがあったら教えてくれると助かるよ。読者さんの意見次第で、物語も違ってくるはずだけれどね

猶予は3日。

白石未筝捜索……開始!!

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