カレンはライカさんと一緒に診察室へ向かった。
マールちゃんたちの病状について
説明を受けるということだけど、
どんな病気なんだろう?
いずれにしても、
担当がカレンになるということは、
僕に調薬の依頼が来るかもしれないな。
一応、道具の準備だけはしておかないと……。
カレンはライカさんと一緒に診察室へ向かった。
マールちゃんたちの病状について
説明を受けるということだけど、
どんな病気なんだろう?
いずれにしても、
担当がカレンになるということは、
僕に調薬の依頼が来るかもしれないな。
一応、道具の準備だけはしておかないと……。
あれ?
セーラさん、お出かけですか?
僕が荷を解こうとしていた時、
セーラさんは身軽な格好で
病室を出て行こうとしているのに気がついた。
護身用のショートソードを持っているから
トイレや売店じゃないよね……。
はいぃ、マイルさんのところへ
行ってきますぅ。
私たちの居場所を
お知らせしておいた方が
いいと思いましてぇ。
あ、そうですね。
その方が何かあった時、
お互いに連絡が
つきやすいですしね。
では、行ってくるのですぅ。
いってらっしゃ~い!
セーラさんは病室を出て行った。
室内には僕とマールちゃん、
そしてソラノさんとミーシャさんが
残っている。
このメンバーだとちょっと気まずいような
気もするけど……。
トーヤお兄ちゃん、
何をしてるの?
道具の点検だよ。
いつでも使えるように
しておかないとね。
その心構え、偉いねぇ。
いえ、そんな……。
ふんっ、偉くなんてないわよ。
そんなの当たり前の話じゃない。
うあ……。
相変わらず敵対的だなぁ……。
当たり前のことでも
それをやっていない人だって
たくさんいるのさ。
基本こそ大切なんだよ。
あっそ……。
頬を膨らませ、
そっぽを向いてしまうミーシャさん。
それに対してソラノさんはニコニコして
意にも介していない。
さすが年の功って感じかな。
まるで思春期の娘とそのおばあちゃんみたい。
ねぇねぇ、トーヤお兄ちゃん。
これは何に使う道具なの?
調薬だよ。僕、薬草師なんだ。
っ!?
ほぅ?
すご~いっ!
トーヤお兄ちゃんって
お医者さんだったんだぁ!
ちょっと違うけど、
似たようなものかな。
カレンお姉ちゃんも
お医者さんなんだよねぇ?
そうだよ。
カレンは正真正銘のお医者さん。
セーラお姉ちゃんは?
セーラさんは武器職人さん。
つまり武器のお医者さんだね。
うまいことを言うねぇ。
そぉ~おっ?
私はそうは思わないけどぉ?
むしろ鼻につく。
…………。
自然に出てきた言葉だったんだけどなぁ。
だからうまいことを言ったつもりはないし、
それで不評を買うのは複雑な気分だよ……。
3人ともお医者さんなのに
病気になって入院するの?
そうじゃなくて、
僕たちは旅の途中に
立ち寄っただけ。
入院するわけじゃないよ。
トーヤ、その話って
本当なんでしょうね?
新しく医者や薬草師として
呼ばれたってわけじゃないのね?
本当ですよ。
でもこの町にいる間は
お手伝いをすることになりました。
……アンタ、腕は確かなの?
どうでしょう?
ただ、薬草師としての技術は
それなりにあるとは思います。
それを聞いたミーシャさんは
値踏みするように、
ジト目で僕を見つめてきた。
何かを考えているみたいだけど、
その内容までは分からない。
やがて彼女は意を決したような顔をして
口を開く。
魔力熱って病気、知ってる?
っ? 初めて聞きますけど。
最近、サンドパーク周辺で
流行ってる病気なのよ。
私もマールもソラノさんも
みんなその病気で入院してる。
……どんな症状ですか?
だって魔力熱を
知らないんでしょ?
話しても無駄じゃん。
もしかしたら対処できる薬が
思い当たるかも
しれないじゃないですか!
無理無理っ♪ アンタみたいな
ポンコツ薬草師に――
話してください!
僕だって薬草師です。
病気に苦しんでいる人を
放ってはおけませんよ!
それに僕はミーシャさんに
元気になってほしいです!
っ!?
僕は真っ直ぐミーシャさんを見つめた。
この真剣な気持ちが伝わってほしい。
もし僕の力で病の苦しさから救えるなら
救いたいもん。
――だって僕は薬草師なんだから!
それから少し経ってから、
ミーシャさんも真顔になって
僕と目を合わせてくる。
あのね、私たちは原因不明で
急に高熱が出ちゃうことがあるの。
魔力の高い人ほど
症状も重いみたい。
急な高熱……ですか……。
発作みたいな感じですか?
そうかも。
どうも風土病らしいよ。
余所からやってきた人は
あまり魔力熱にかからないからね。
最悪の時は高熱にうなされながら
死んじゃうんだって。
しかもライカ先生が言うには
特効薬がないって……。
不治の病なのよ……。
そんなっ!
みんな一様に表情が曇っていた。
僕だって動揺して心が落ち着かない。
――それにしても3人がそこまで重い病気に
かかっていたなんて予想外だった。
シンディさんはなぜカレンに
そんな重病患者さんの診察を任せたんだろう?
意図が分からない。
魔力熱に一度かかったら、
死の恐怖に怯えながら一生を
過ごさなければならないんだ。
だからさ、
最近はいっそ自分で命を絶った方が
楽なんじゃないかって
思うようになっ――
っ!
何を言ってるのっ!
死んじゃったら
おしまいじゃないかっ!
……っ……。
ライカさんやシンディさんは
みんなを助けるために
がんばってくれてるんじゃないの?
それを裏切る気っ?
だったらこの苦しみを
アンタは取り去ってくれるわけっ?
言うだけなら簡単よっ!
うぐ……。
バカっ! 最低っ!
アンタなんか
顔も見たくない!
大ッ嫌いっ!!
ミーシャさんは走って
病室から出ていってしまった。
その際に僕と彼女の体がぶつかり、
鈍い痛みが右肩を中心に残る。
――そしてすれ違う瞬間、
彼女の瞳から涙が零れ落ちるのが
ハッキリと見えた。
心も体も痛くて苦しい……。
次回へ続く……。