カレンはライカさんと一緒に診察室へ向かった。

マールちゃんたちの病状について
説明を受けるということだけど、
どんな病気なんだろう?


いずれにしても、
担当がカレンになるということは、
僕に調薬の依頼が来るかもしれないな。

一応、道具の準備だけはしておかないと……。
 
 

トーヤ

あれ?
セーラさん、お出かけですか?

 
 
僕が荷を解こうとしていた時、
セーラさんは身軽な格好で
病室を出て行こうとしているのに気がついた。



護身用のショートソードを持っているから
トイレや売店じゃないよね……。
 
 

セーラ

はいぃ、マイルさんのところへ
行ってきますぅ。

セーラ

私たちの居場所を
お知らせしておいた方が
いいと思いましてぇ。

トーヤ

あ、そうですね。
その方が何かあった時、
お互いに連絡が
つきやすいですしね。

セーラ

では、行ってくるのですぅ。

トーヤ

いってらっしゃ~い!

 
 
セーラさんは病室を出て行った。


室内には僕とマールちゃん、
そしてソラノさんとミーシャさんが
残っている。

このメンバーだとちょっと気まずいような
気もするけど……。
 
 

マール

トーヤお兄ちゃん、
何をしてるの?

トーヤ

道具の点検だよ。
いつでも使えるように
しておかないとね。

ソラノ

その心構え、偉いねぇ。

トーヤ

いえ、そんな……。

ミーシャ

ふんっ、偉くなんてないわよ。
そんなの当たり前の話じゃない。

トーヤ

うあ……。
相変わらず敵対的だなぁ……。

ソラノ

当たり前のことでも
それをやっていない人だって
たくさんいるのさ。
基本こそ大切なんだよ。

ミーシャ

あっそ……。

 
 
頬を膨らませ、
そっぽを向いてしまうミーシャさん。

それに対してソラノさんはニコニコして
意にも介していない。
さすが年の功って感じかな。


まるで思春期の娘とそのおばあちゃんみたい。
 
 

マール

ねぇねぇ、トーヤお兄ちゃん。
これは何に使う道具なの?

トーヤ

調薬だよ。僕、薬草師なんだ。

ミーシャ

っ!?

ソラノ

ほぅ?

マール

すご~いっ!
トーヤお兄ちゃんって
お医者さんだったんだぁ!

トーヤ

ちょっと違うけど、
似たようなものかな。

マール

カレンお姉ちゃんも
お医者さんなんだよねぇ?

トーヤ

そうだよ。
カレンは正真正銘のお医者さん。

マール

セーラお姉ちゃんは?

トーヤ

セーラさんは武器職人さん。
つまり武器のお医者さんだね。

ソラノ

うまいことを言うねぇ。

ミーシャ

そぉ~おっ?
私はそうは思わないけどぉ?
むしろ鼻につく。

トーヤ

…………。

 
 
自然に出てきた言葉だったんだけどなぁ。

だからうまいことを言ったつもりはないし、
それで不評を買うのは複雑な気分だよ……。
 
 

マール

3人ともお医者さんなのに
病気になって入院するの?

トーヤ

そうじゃなくて、
僕たちは旅の途中に
立ち寄っただけ。
入院するわけじゃないよ。

ミーシャ

トーヤ、その話って
本当なんでしょうね?
新しく医者や薬草師として
呼ばれたってわけじゃないのね?

トーヤ

本当ですよ。
でもこの町にいる間は
お手伝いをすることになりました。

ミーシャ

……アンタ、腕は確かなの?

トーヤ

どうでしょう?
ただ、薬草師としての技術は
それなりにあるとは思います。

 
 
それを聞いたミーシャさんは
値踏みするように、
ジト目で僕を見つめてきた。

何かを考えているみたいだけど、
その内容までは分からない。



やがて彼女は意を決したような顔をして
口を開く。
 
 

ミーシャ

魔力熱って病気、知ってる?

トーヤ

っ? 初めて聞きますけど。

ミーシャ

最近、サンドパーク周辺で
流行ってる病気なのよ。
私もマールもソラノさんも
みんなその病気で入院してる。

トーヤ

……どんな症状ですか?

ミーシャ

だって魔力熱を
知らないんでしょ?
話しても無駄じゃん。

トーヤ

もしかしたら対処できる薬が
思い当たるかも
しれないじゃないですか!

ミーシャ

無理無理っ♪ アンタみたいな
ポンコツ薬草師に――

トーヤ

話してください!
僕だって薬草師です。
病気に苦しんでいる人を
放ってはおけませんよ!

 
 
 
 
 

トーヤ

それに僕はミーシャさんに
元気になってほしいです!

 
 
 
 
 

ミーシャ

っ!?

 
 
僕は真っ直ぐミーシャさんを見つめた。



この真剣な気持ちが伝わってほしい。
もし僕の力で病の苦しさから救えるなら
救いたいもん。

――だって僕は薬草師なんだから!




それから少し経ってから、
ミーシャさんも真顔になって
僕と目を合わせてくる。
 
 

ミーシャ

あのね、私たちは原因不明で
急に高熱が出ちゃうことがあるの。
魔力の高い人ほど
症状も重いみたい。

トーヤ

急な高熱……ですか……。
発作みたいな感じですか?

ミーシャ

そうかも。

ソラノ

どうも風土病らしいよ。
余所からやってきた人は
あまり魔力熱にかからないからね。

マール

最悪の時は高熱にうなされながら
死んじゃうんだって。
しかもライカ先生が言うには
特効薬がないって……。

ミーシャ

不治の病なのよ……。

トーヤ

そんなっ!

 
 
みんな一様に表情が曇っていた。
僕だって動揺して心が落ち着かない。



――それにしても3人がそこまで重い病気に
かかっていたなんて予想外だった。

シンディさんはなぜカレンに
そんな重病患者さんの診察を任せたんだろう?
意図が分からない。
 
 

ミーシャ

魔力熱に一度かかったら、
死の恐怖に怯えながら一生を
過ごさなければならないんだ。

ミーシャ

だからさ、
最近はいっそ自分で命を絶った方が
楽なんじゃないかって
思うようになっ――

トーヤ

っ!

トーヤ

何を言ってるのっ!
死んじゃったら
おしまいじゃないかっ!

ミーシャ

……っ……。

トーヤ

ライカさんやシンディさんは
みんなを助けるために
がんばってくれてるんじゃないの?
それを裏切る気っ?

ミーシャ

だったらこの苦しみを
アンタは取り去ってくれるわけっ?
言うだけなら簡単よっ!

トーヤ

うぐ……。

ミーシャ

バカっ! 最低っ!
アンタなんか
顔も見たくない!
大ッ嫌いっ!!

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 

 
 
ミーシャさんは走って
病室から出ていってしまった。

その際に僕と彼女の体がぶつかり、
鈍い痛みが右肩を中心に残る。



――そしてすれ違う瞬間、
彼女の瞳から涙が零れ落ちるのが
ハッキリと見えた。



心も体も痛くて苦しい……。
 
 

 
 
 
次回へ続く……。
 

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