ライカさんの案内で、
僕たちは北棟の病室へやってきた。
そこは建物の2階、
通路の突き当たりにある西向きの部屋だった。
ベッドの数は6床で、向かって左右に細長い。
手前に空いているベッドが3つ、
その奥に患者さんが使っているベッドが
3つという配置だ。
正面に幼い女の子、右におばあさん、
そして左に僕より少し年上くらいの
お姉さんがいる。
全員が女性というのが気になるなぁ……。
ライカさんの案内で、
僕たちは北棟の病室へやってきた。
そこは建物の2階、
通路の突き当たりにある西向きの部屋だった。
ベッドの数は6床で、向かって左右に細長い。
手前に空いているベッドが3つ、
その奥に患者さんが使っているベッドが
3つという配置だ。
正面に幼い女の子、右におばあさん、
そして左に僕より少し年上くらいの
お姉さんがいる。
全員が女性というのが気になるなぁ……。
あっ! ライカ先生っ!
僕たちの姿を見て、
女の子がライカさんのところへ駆け寄ってきた。
見た目ではどこかに怪我をしているという
感じじゃない。
でも病気にしては顔色もいいし、動きも活発だ。
検査入院とか
発作が出ない限り容態が安定しているとか、
そういう感じなのかな?
マール、今日も元気いっぱいね!
お日様みたいっ♪
うんっ! すごく元気だよっ!
だから早く退院させてよ~!
……っ……。
瞬時にライカさんの顔が曇った。
そして視線を女の子から逸らし、唇を軽く噛む。
あの反応を見ると、
やっぱり女の子は入院が必要な程度の
何らかの病気か怪我を患っているんだ、きっと。
それは……ゴメンね……。
ちぇ~っ!
その代わり、
遊んでくれるお姉さんたちが
この病室に入ることになったから。
もしかして、この人たち?
女の子は視線を僕たちの方へ向けた。
まん丸で大きな瞳は
好奇心でキラキラと輝いている。
無垢で無邪気な笑顔がすごく可愛らしい。
はじめましてっ!
マールです。5歳です。
かーわいいっ!
私はカレンよ。よろしくねっ♪
僕はトーヤだよ。
セーラなのですぅ!
わーい、わーいっ!
仲間が増えた~っ!!
僕らが挨拶をすると、
マールちゃんは満面に笑みを浮かべながら
周りをグルグルと駆け回る。
――そういえば、隠れ里にいた時も
近所の子どもたちがこんな感じだったなぁ。
みんな今も元気で暮らしてるかなぁ。
しばらくの間、
この3人が入ることになります。
ソラノさんとミーシャさんも
よろしくお願いしますね。
ライカさんがベッドにいた2人に向かって
声を掛けた。
するとおばあさんはニッコリと微笑む一方、
お姉さんは不機嫌そうな顔をしながら
こちらを睨み付けてくる。
よろしくね。私はソラノよ。
……ミーシャです。
では、トーヤさんたちは
空いているベッドを
ご自由にお使いください。
ありがとうございます。
それとカレンさんには
診察を担当していただくので、
彼女たちの状況をお伝えします。
一緒に診察室へお越しください。
あ、はい。
ライカさんは病室を出て行こうとした。
そんな彼女を僕は慌てて呼び止める。
だって気になることがあるから……。
あのっ、ライカさん!
僕もこの病室でいいんですか?
別の方がいいんじゃないですか?
っ? なぜです?
基本的には性別で病室を
分けるじゃないですか。
男女混合で使用するケースも
場合によってはありますけど……。
何をおっしゃりたいのか、
分からないのですが?
あの……僕は男子ですよ?
えぇっ!? トーヤさん、
男性だったんですかっ!?
ライカさんは素っ頓狂な声をあげて
目を白黒させていた。
つまり僕のこと、
女の子だと思ってたわけだね。
なんとなくそんな気はしていたけど……。
以前と比べれば慣れてきてはいるけど、
あんなに驚かれると、やっぱりショックだよぉ。
ごめんなさいっ!
すぐに別の部屋を――
構わないわよ、私は。
私も一緒のお部屋でいいよ~!
恐縮しつつ慌てふためいているライカさんに、
ソラノさんとミーシャちゃんが
立て続けに笑顔で声を掛けた。
すると終始クールな感じだったミーシャさんが
初めて狼狽えた様子を見せる。
ちょっと、2人とも!
勝手なことを言わないで!
私は嫌だからねっ!
大丈夫ですよぉ。
ずっと3人で同じ部屋に
泊まってますけどぉ、
私たち何もされてませんからぁ。
それは知り合いだからでしょ!
いえいえ、
私はトーヤくんと知り合って
そんなに時間が経ってませんよぉ。
トーヤくんは人畜無害の
甲斐性なしなのですぅ。
セーラさん、
それは言い過ぎですよっ!
トーヤだって傷付きますよっ!
あららぁっ♪
甲斐性なしなのは、
怖ぁ~いお目付役がいるのが
原因かもしれませんねぇ。
セ、セーラさんっ!
頬を膨らませつつも、
焦ってタジタジになっているカレン。
本当の姉妹みたいに仲が良さげで微笑ましい。
ライカさん、
それなら僕は廊下で構いません。
毛布だけお借りできれば。
異性と同じ部屋は嫌だっていう
ミーシャさんの気持ちも
理解できますし。
っ!?
トーヤさんは
それでよろしいんですか?
代わりの部屋を手配しますよ?
いえ、いいんです。その時間は
患者さんやシンディさん、
そしてライカさん自身のために
使ってください。
だって患者さんの治療をするのが、
僕らの主たる仕事じゃないですか。
トーヤさん……。
ふふっ♪
分かりました。
でも下に敷くマットくらいは
併せてご用意させてください。
ありがとうございます。
トーヤお兄ちゃんっ!
じゃ、私も一緒に廊下で
寝てあげるっ!
その気持ちは嬉しいけど、
治療に支障が出るといけないから
マールちゃんが元気になったらね。
僕はその場にしゃがんで
マールちゃんと目線の高さを合わせ、
微笑みかけながら頭を撫でてあげた。
すると彼女は頬を赤らめ、
嬉しそうに僕にも明るく微笑んでくれる。
っ!
まぁまぁ、いいじゃないですかぁ。
相手は幼い子ですしぃ。
分かってますよぉ……。
あ~っ、もうっ!
不意にミーシャさんが苛立った声を上げた。
その場にいた全員がキョトンとして
彼女へ視線を向ける。
この部屋のベッドを
使いなさいよ!
えっ? いいんですかっ?
その代わり、
少しでも怪しい動きをしたら
地獄送りにしてあげるから
覚悟しておきなさいよねっ!
その時は私も制裁に
協力させていただきますっ♪
カ、カレン……。
トーヤくん、
骨は拾ってあげますので
安心してくださいねぇ~っ!
病室内に楽しげな笑い声が響いた。
こうして僕は通路から見て手前の右、
ミーシャさんから一番離れた位置のベッドを
使わせてもらえることになった。
ちなみに真ん中がカレン、左はセーラさんだ。
みんなと楽しい時間が過ごせればいいな。
そして僕の薬草師としての力が
お役に立てたら嬉しいな。
次回へ続く!