改めまして、こんにちは。私は今でもあなたの事が大嫌いですよ

彼女は突然現れた。僕を偽物と呼び、そんな僕を大嫌いと言う少女は、今朝の如く何の前触れもなく現れた。

ともあれついでと言わんばかりに、僕たちの世界を、僕たち2人だけの世界を紫色の花びらで覆ったのは何の皮肉だろうか。

都 大樹

……

唐突な彼女の登場と、数時間前に聞いたような台詞に圧倒される僕に、続けて彼女はこう言った。

それにしても、よかったじゃないですか。あの少年が助かって

青葉と話をして落ち着いてはいたものの、やはりそのことが気になっていた僕は、少女の声に疑問を投げかける。

都 大樹

やっぱり君は知っているんだな!? 今朝僕に起きたことも、あの少年に起きたことも、君がくれた花束の意味も!

え、そんなことも聞いちゃうんですか? しょうがないなあ教えて差し上げますよ。上から85/56/81です!

しかし、彼女に僕の声は届かなかったようだ。

都 大樹

な、そんな夢にまで見たような……いやいや僕が聞いているのはそんなことじゃない! そもそも僕が偽物っていうのはどういう事なんだ!?

いえいえそんな。せいぜい体育の授業でランニングするときに揺れてしまう程度ですよ

都 大樹

そんな馬鹿な! 相場ではそういう子は同時におなかも揺れていると決まってるんだ! じゃなくて。だから君は僕についても何か知っているんだろう!?

ええもちろん。おへそはしっかり見せていましたとも

やはり会話は成り立たなかった。いやしかし。確かに彼女は知っていたのかもしれない。

都 大樹

く……お前は一体僕の何を知っているって言うんだ!?

なぜなら。僕のこの質問に、彼女はこう答えたのだ。

周りが世間にはびこるお尻ブームに乗っかってお尻お尻と言うから自分もそう装っているけれど、実際は迷いなくおっぱいの一択

と。

都 大樹

な、何で……それは青葉にすら教えていないトップシークレットなのに

へ―そうなんですか……最低ですね

都 大樹

嵌められたー

お尻ならぬ墓穴を掘ったようだった。

まあなんにしても

ショックのあまり膝をつくどころか地べたにどっぷし倒れこんでうつ伏せ状態の僕を無視して。

彼女はまたしても自分勝手に言葉を放つ。

あの少年の無事は約束しましょう。事故なんて起きなかった。あの少年は死ななかった。これだけは真実です。

ぶしつけに、投げやりに。捉えようによっては僕の心を大きく揺さぶることもできそうな言葉を残して、彼女は踵を返す。

都 大樹

ま、待って! 君にはまだ聞きたいことが

そうそう。あなたの最初の質問にまだ答えていませんでしたね

僕の言葉に、彼女は振り返る。その口元はわずかに緩んでいた。

『やっぱり君は知っているんだな!?』でしたっけ? ええ、知っていますとも。私は何でも知っていますよ

最後に。

もちろん

彼女はこう言い残して、紫色の花びらが散るこの世界から去って行った。

あなたが知っている範囲内で、ですけどね

都 大樹

……

言って微笑んだ彼女の赤い瞳に、僕の姿なんて映ってはいなかった。

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