都 大樹

そんな、どうして

ここが事故が起こる直前の同じ場所だということに、認識はできても理解が追いつかなかった。

今までの人生で最も衝撃的だった出来事を。劇的で、悲劇的であった今朝の事故を。

『まだ起きてはいない』と結論付け僕が納得するのには、あと小一時間は必要であろう。

ただし。世界はそんな僕に優しくできてはいなかった。
時間は皆に平等なのだ。

嫌なことをしているから長いだとか、楽しいことをしているから早いだとか、死の間際に走馬燈が見えるだとか。そんなものは全て感覚であって現実ではない。

だから。
つまり。

おい兄ちゃん。信号が青になったんだから早く渡りな

死のカウントダウンは始まっていた。

信号が青に変わったことを知らせるメロディーとともに、周りにいた人も、僕の後ろで笑っていた小学生の子供たちも、皆が当たり前に歩き出していた。

僕も。慌てて走り出す

都 大樹

ちょ、待っ……

これから起きるであろうことを何も知らないこの集団の中で、僕の叫びは一体誰に届くのだろう。

都 大樹

だめだ……

だけど、叫ばずにはいられなかった。だって、僕は知っているから。あの惨劇を目の当たりにしているから。

都 大樹

行くな

それでも。
結論から言えば。

都 大樹

だめだ、止ま

僕の声は届かなかった。

僕はまたしても間に合わなかったのだ。

僕の叫びを遮るように。
大きく風を切る激しい音とともに。

僕の目の前を一台の車が横切った。

もちろん、止まっている車の間をぬって、青信号の横断歩道へ、高速で、だ。

だから、周りの目も気にせず、僕は叫んでいた。

都 大樹

うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!

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