僕たちは施療院の敷地内に入り、
建物の出入り口へ向かった。
でもそのドアには貼り紙があって、
それを見た僕は思わず足を止めてしまった。
だってそこに書かれていたのは……。
僕たちは施療院の敷地内に入り、
建物の出入り口へ向かった。
でもそのドアには貼り紙があって、
それを見た僕は思わず足を止めてしまった。
だってそこに書かれていたのは……。
…………。
トーヤくん、
どうしたんですかぁ?
立ち止まっちゃってぇ?
――っ!
カレンは貼り紙に気付いたようだった。
直後、頭から湯気を立てながら、
それを乱暴に破いて捨てる。
そして僕の手を強く握って引っ張り、
建物の中へ先導するように歩いていった。
僕は戸惑いつつも、
足を動かして彼女についていく。
セーラさんもあとを追ってきている。
トーヤ、あんなの
気にする必要ないからね?
無視よ、無視っ!
う、うん……。
それは分かってる。
でも貼り紙を
勝手に破いちゃって良かったの?
いいのよ!
あれは明らかに
法律違反なんだからっ!
貼り紙には何が
書いてあったんですかぁ?
元・下民の方は
立ち入りをご遠慮ください。
はわわぁっ!
それでようやくセーラさんは
僕やカレンの行動を理解したようだった。
表情は曇って、僕を心配そうに見つめてくる。
トーヤくん、
堂々としていていいんですよぉ?
何かがあればお助けしますしぃ。
私も守ってあげる!
いざとなったら建物ごと
吹っ飛ばしてやるんだからっ!
そ、それはダメだよ……。
ここには病気や怪我の人が
たくさん来ているんだから。
カレンはお医者さんなんだし。
う……。
こ、言葉のあやよ……。
それならいいけど……。
冷静さを失った状態のカレンは、
暴走して歯止めが利かなくなることが
あるからなぁ……。
憤ってくれる彼女の気持ちは嬉しいけど、
やっぱり医師や薬草師が
怪我人を生んでしまうのはマズイよ。
――で、それはそれとして、
ふたりには伝えなきゃいけないことがある。
カレン、セーラさん……。
っ?
なんですぅ?
――ふたりとも、
心配してくれてありがとう。
うんっ!
えへへへぇっ!
僕は幸せ者だ。
こうして親身になって心配してくれる人が
そばにいるんだから。
嬉しくて涙が出そうになるけど、
余計な気遣いをさせないためにも
我慢しなきゃねっ!
――それにしても、
制度上は平等な世の中になったとはいえ
やっぱり差別はまだまだ残っているんだなぁ。
だからこそ僕も努力して、
女王様の目指している世界の実現に
協力していかなきゃ!
施療院の中に入った僕たちは受付に着いた。
そこでは職員らしき何人かのお姉さんが
事務の仕事をしていた。
早速、僕はその中で一番近くにいた人に
声を掛けてみる。
すみません。
シンディさんに
お会いしたいんですけど。
お約束はございますか?
いえ、ありません。
シンディ先生は多忙のため、
ご予約のない方の診察は
受け付けておりません。
私たちは診察がしてほしくて
来たわけではありません。
お会いして
話をさせていただきたいんです。
僕たち、紹介状を持っています。
僕はラジーさんからもらった紹介状を
受付のお姉さんに手渡した。
お姉さんは差出人であるラジーさんのサインと
宛名をチラリと見てから、
値踏みするようにこちらを見やる。
――少々お待ちいただけますか?
やや間があってから彼女はそう言うと、
受付を別のお姉さんに任せ、
紹介状を持って奥へ引っ込んだ。
それからしばらくして戻ってきて、
僕たちに声を掛けてくる。
1時間後であれば、
会っても良いとのことです。
ただし、10分間しか
時間は取れないそうですが。
カレン、どうする?
まずは会ってみないことには
何も始まらないわ。
そうだね。
ですねぇ。
――それで構いません。
カレンが答えると、
受付のお姉さんは小さく頷いた。
こうして僕たちは待合スペースにある
長いすに座って待つことにした。
それからきっちり1時間後、
僕たちは受付のお姉さんに呼ばれた。
そして彼女の案内で診察室へ入ると、
そこには眼光の鋭い女性がいて
カルテらしき書類に
何かを書き込む仕事をしていた。
――どうやらこの人がシンディさんのようだ。
彼女は僕らの存在に気付くと、
手を止めて顔をこちらに向ける。
ラジーの紹介状を持ってきたのは
あなたたち?
はい、そうです。
プレプレ村では活躍したそうね。
紹介状に詳細が書かれていたわ。
で、医師はどなた?
私です。カレンと申します。
ふぅん……。
わずかに眉を動かしただけで、
表情も声のトーンも無味無臭な感じだった。
何を考えているのかが掴みにくい。
薬草師は?
はいっ! トーヤです。
へぇ……。
なんか睨まれているような気がする。
もしかしたら、
単に僕の思い過ごしかもしれないけど……。
いずれにしても緊張で
僕の胸は大きく脈動しちゃってる。
そっちの彼女は?
一緒に旅をしている
セーラですぅ。
……事情は分かったわ。
地下倉庫の片隅で良ければ
寝泊まりに使ってもいいわよ。
地下倉庫ですかっ!?
思わず声を裏返して叫んでしまった。
するとシンディさんはムッとした顔をして、
僕たちを冷たい瞳で睨み付けてくる。
なぁに? 不満でもあるの?
タダで泊めてあげるだけでも
感謝してほしいものだわ。
空いているベッドって
ないんですかぁ?
病人か怪我人になったら
使わせてあげる。
そうだ、良かったら
あばら骨でも折ってあげよっか?
ひいぃっ!
遠慮するのですぅ!
じゃ、話はこれでおしまい。
私は忙しいの。
早く部屋から出ていって。
――シッシ!
シンディさんは手首を振って、
僕たちを追い払うような仕草をした。
そしてすぐに書類に目を落として、
書類に何かを書き込む仕事を再開させる。
もはや僕たちが
その場にいないかのような無関心さ。
なんて素っ気ないんだろう……。
次回へ続く!