僕たちは商店で聞き込みをしていった。


すると町の中心部にある町立施療院で、
シンディさんが医師として
働いているという情報を
多くの人から手に入れることができた。


ちなみに腕のいい医師として有名で、
施療院では医師長も務めているそうだ。

だからこそ情報が容易に集まったとも
言えるけど……。


そのため僕たちは町立施療院へ向かった。
 
 

カレン

こうして町の中を歩いていると、
ここが砂漠の真ん中にあるって
忘れちゃうくらいに賑やかね。

カレン

……暑ささえなければ
最高なのに。

トーヤ

でも砂漠にしては
涼しいような気がするんだけど
気のせいかな?

セーラ

確かにそうですねぇ。
日差しは強いですけどぉ
空気はひんやりしてますねぇ。

いいところにお気づきですね。

 
 
後ろの方から聞き覚えのある声がした。

足を止めて振り向いてみると、
そこにいたのはクロードさんだった。


バジリスクの攻撃でやられた毒の影響も
今やすっかり消えていて顔色がいい。
まだ体力は全快していないだろうけど……。

彼はいつも通りの柔らかな笑みを浮かべて
僕を見つめていた。
 
 

トーヤ

クロードさん、
どこかへお出かけですか?

クロード

いえ、すでに取引先へ
行ってきたところです。
これからサンドパーク支社へ
戻るのですよ。

カレン

病み上がりなんですから
無理はしないでくださいね?

クロード

心得ております。
でももし倒れた時には
トーヤ様にお薬と看病を――

カレン

治療は私の担当です!
トーヤは薬草師ですから
治療は専門外ですっ!!

 
 
カレンはクロードさんの言葉を遮って叫んだ。
そして敵意を含んだ眼差しで
彼を鋭く睨み付けている。


なんか迫力や威圧感が半端ない……。


つい今まで和やかに話をしていたのに、
なんでこんな一触即発な空気になっちゃうの?
 
 

トーヤ

僕は看病をするくらいなら――

 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

カレン

トーヤぁ♪

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

トーヤ

っ!?

 
 
カレンは僕に明るい笑顔を向けていた。

ただ、瞳の奥は笑ってなくて、
視線が合うと砂漠にいるにもかかわらず
背筋が凍るような想いがする。


体の震えが止まらないっ!
 
 

カレン

適材適所って前にも話したわよね?
トーヤは私の指定した薬を
作るのがお仕事でしょ?
治療は医師である私の仕事。

カレン

――分かるでしょ?

 
 
反論を許さない空気を漂わせた低い声。
そして吊り上がった眉と見開かれた目が
僕に強烈なプレッシャーをかけてくる。



――下手なことを言ったら殺されるっ!

もはや僕には頷く以外の選択肢はなかった。
 
 

トーヤ

う……うん……。

 
 
僕の返事を聞いたカレンは満面に笑みを浮かべ、
クロードさんの方へ向き直った。
 
 

カレン

というわけです、クロードさん。
勘違いしないでくださいねっ♪

クロード

それは残念です。

トーヤ

…………。

セーラ

ところでぇ、
なんで空気がひんやりしているのか
教えていただけますかぁ?

クロード

そうでしたね。
その話をしていたということを
忘れるところでした。

クロード

道路の隅をよくご覧ください。

 
 
クロードさんは道路と建物の境を指差した。


よく見てみるとそこには細い溝があって、
それは道路に沿ってどこまでも続いている。

ただし、所々にはフタがしてあるし、
それがない場所には
金属製の格子が被せてある部分もある。
 
 

トーヤ

溝がありますね。

クロード

あれは小さな水路なのですよ。
常に冷たい水が流れているので、
町全体の気温が
下がっているわけです。

トーヤ

そうだったんですか。

カレン

でも水って貴重なんですよね?
蒸発しちゃって
勿体ないと思うんですけど?

クロード

この町のオアシスでは
豊富に水が湧いているのです。
水路に流しても余裕があるほどに。

セーラ

なるほどぉ。
だからたくさんの人が
生活できているんですねぇ?

クロード

その通りです。ポートゲートや
ここへ来る途中に通ってきた
砂漠地帯とは
事情が違うわけです。

トーヤ

それで納得できました。

クロード

では私はまだ仕事中ですので
これで失礼いたします。
トーヤ様、また今度ゆっくり
お話をいたしましょう。

トーヤ

はい、もちろん!

 
 
クロードさんは嬉しそうに目を細め、
港の方へ歩いて去っていった。
僕は彼の姿が見えなくなるまで見送ろうとする。

でもその直後、
カレンは僕の腕を掴んで強引に引っ張った。
 
 
 

 
 

トーヤ

うわわっ!

カレン

トーヤ、さっさと行くわよっ!

トーヤ

そんなに強く
引っ張らないでよぉ~っ!

セーラ

うふふふっ♪

 
 
それからしばらくの間、
僕はカレンの意のままに歩くことしか
できなかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
やがて僕たちは情報通りの場所に
町立施療院を見つけた。
一見すると貴族のお屋敷みたいに立派だ。

また、建物の壁にはそんなに汚れがないし、
塀で囲われた敷地の面積も広い感じがする。
 
 

トーヤ

ここが町立施療院かぁ。

カレン

規模も大きいみたいね。
私はもっとボロくて
こぢんまりしてるのかと
思ってたわ。

セーラ

ではではぁ、
受付に行ってみましょ~。

 
 
僕たちは敷地内に入り、
施療院の建物内へ足を踏み入れることにした。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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