フォーチュンにセットされた銀の弾は
空を切り裂きながら、
まっすぐバジリスクに向かって飛んでいく!
フォーチュンにセットされた銀の弾は
空を切り裂きながら、
まっすぐバジリスクに向かって飛んでいく!
当たれぇええええぇーっ!
ピギャアァアアアアァーッ!
やったぁっ!
僕の想いが詰まった銀の弾は
バジリスクの頭に命中した。
ヤツは白目をむいて倒れ込み、動かなくなる。
もしかして、倒した……のかな……?
ただ、それで石化や毒に冒されている人が
回復するわけではないらしかった。
周りで石になっている人たちはそのままだし、
下ではカレンが治療を続けているから。
だから僕も治療の手伝いをするため、
急いで船を降りて
彼女のところへ向かったのだった。
う……っ!
砂漠に降り立つとそこは想像以上に暑くて、
しかも歩きにくかった。
みんなこんな過酷な状況で
戦ったり治療をしたりしていたのか……。
トーヤっ!
うわわっ!?
僕の姿を見つけたカレンは、
即座に駆け寄ってきて抱きついてくる。
すごく力が入ってるってことは、
それだけ心配させちゃったって
ことなんだろうな……。
トーヤくん、大丈夫なんですかぁ?
さっきバジリスクの光線を
浴びたように見えたんですけどぉ?
はい、そのはずなんですけど、
体は何ともないんです。
僕にもよく分からなくて。
ホントに体は平気なの?
うん、心配かけちゃってゴメンね。
それと気にしてくれて嬉しいよ。
ありがとうっ!
そんなの当たり前でしょっ♪
ところで治療は
まだ途中なんでしょ?
手伝いに来たんだよ。
それなら大丈夫。
ちょうど終わったところだから。
そうだったんだ。
何人かは手遅れだったのですぅ。
残念ですけどぉ。
そうでしたか……。
僕は悔しくてギュッと拳を握りしめた。
だってあとちょっと早くここへ来ていたら、
助けられた人もいたかもしれないから。
それにしても
トーヤくんは光線を浴びたのに
なぜ無事だったんでしょうねぇ?
鏡で反射させたとか?
ううん、それはないよ。
僕、まともに食らっちゃったよ。
だから何ともないのが
不思議なんだ。
そうなるとぉ、
もしかしたらトーヤくんには
状態異常を無効化する能力が
あるのかもしれませんねぇ。
えっ?
以前、私はトーヤくんから
強い力を感じるって
言いましたよねぇ?
あっ!
――思い出した!
それは確かタックさんやカレンと一緒に
セーラさんのお店へ初めて行った時だ。
どんな武器を使っているのかって
セーラさんに訊かれて……。
あ、えっと、僕は今まで
武器を持ったことがなくて……。
ふぇっ?
あの……その……
僕、下民だったんです。
……えっ?
トーヤくん、下民なんですかぁっ?
トーヤくん、
本当に下民だったんですかぁ?
……はい、事実です。
力も魔法もなくて。
ちょっと!
今は身分なんて関係ない時代なの!
もしトーヤを差別するなら――
いえ、そういう意味じゃ
ないんですぅ。
トーヤくんから強い力が
伝わってくるんですぅ。
そういえば、そういうことがあったなぁ。
あらためて思い返してみると、すごく懐かしい。
ずっと昔のことのような気もするけど、
あれからまだ1年も経ってないんだよね……。
そう感じた理由は
これなのかもしれないですぅ。
今度、魔術師さんに
詳しく調べてもらいましょ~。
はい、そうですね。
もしそうだとすると、
それってすごい能力よ。
もし身分制度が残っていたら
中民になれるレベルだと思う。
そうなの?
僕にはなんかピンと来ないな。
いきなり中民って言われてもね。
それに今は身分なんてない
世の中になったわけだし。
自分に能力があるって分かって
嬉しくないの?
嬉しいけど、それだけでは
意味がない気がするんだ。
それをどれだけみんなのために
使えるかが大切なんだと思う。
…………。
植物や薬の知識だって
みんなのために使って
初めて意味があるでしょ?
それと同じことだよ。
もし僕に本当に特別な力が
あったとしたら、
それをみんなのために使うだけ。
そのスタンスは変わらないよ。
トーヤ……。
素晴らしいのですぅ!
親友がそういう人なんです。
彼を見ていて
僕もそうありたいって
思っただけなんですよ。
そうなんですかぁ。
トーヤくんがそこまで慕うなんて、
私もその親友さんに
会ってみたいですねぇ。
えぇ、いつか機会があれば
ご紹介しますっ!
アレスくん、また少しくらいは
キミに近付けたかな?
そうだといいな……。
なんだかアレスくんのことを考えていたら、
僕も会いたくなってきちゃった。
また一緒にお話したいな……。
――その後、虫の息だったバジリスクに
マイルさんがトドメを刺した。
これで新たな被害者は出ないと思う。
ちなみに石化した人たちは
マイルさんが持っていたアイテムによって
元の姿へ戻ることができた。
ただし、石化している時に
体が欠けてしまった人を除いてだけど……。
マイルさんの話だと、
そういう場合は助からないんだそうだ。
不幸にも命を落としてしまった人たちに
対しては、
炎の魔法を使える人が協力して遺体を焼いて、
砂漠に散骨した。
マイルさんたち砂漠で暮らす人々は、
そうしているらしい。
きっとそれが一番安らかに眠ってもらえる
葬り方だと僕も思う。
だって周りは砂ばかりなので、
土葬したり
お墓を作ってあげたりするのは無理。
もし砂嵐が起きたら、
みんな吹き飛ばされちゃうもん。
では、旅を再開させよう。
船の点検をして異常がなければ
すぐに出発だ。
はいっ!
みんな、お疲れ様。
僕の活躍が見せられなかったのは
残念ではあるが。
でもでもぉ、あのバジリスクは
何だったんでしょうねぇ?
ふむ、僕もそれは気になっている。
あんな巨大で凶悪なヤツは
初めて見るからね。
良くないことが起きる
前兆でなければいいんですけど。
――カレンの言うように不安は残る。
だから今後は
アクシデントがないことを祈りつつ、
僕たちは旅を再開させたのだった。
次回へ続く!