光は次第に強くなり、
目を開けていられなくなってくる。



あぁ、僕はどうなってしまうのだろう?

このまま猛毒に冒されてしまうのか、
それとも石化か――。




僕は目を閉じて、
自分の身に起こるであろう恐怖に備えた。
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

トーヤ

…………。

 
 
――それから数秒が経過した。

でも体のどこも痛くないし、
指や腕にも力が入って動かせる。

何が起こったのかと、
僕はゆっくり目を開けてみた。
 
 
 
 
 

 
 
ざっと体を見回してみても何ともない。
少なくとも石化はしていないみたいだ。

かといって毒に冒されたのかというと、
体はいたって健康そのもの。
意識だってハッキリしている。
 
 

トーヤ

僕……どうなったの?

 
 
まさかバジリスクの光線が外れたとは思えない。

あの状況でもし光線が曲がったのなら、
よほど強力な魔法で
空間を歪めでもしない限り無理だ。



もちろんそんな魔法、僕には使えない。
誰かが助けてくれたにしても、
周りには誰もいない。



……ワケが分からない。


遠くで立っているカレンも
キョトンとして僕の方を見ている。

なにより、光線を放ったバジリスク自身が
僕の無事な様子を見て
少し混乱しているように感じられる。
 
 

トーヤ

よ、よく分からないけど、
何ともないなら攻撃を再開だっ!

 
 
バジリスクの意識は依然として、
こちらに向いている。

僕は考えるのを後回しにすることにして、
とりあえずは自分の役割を果たすことにした。



それから何発か弾を放っているうちに、
慣れたせいか命中率がだいぶ上がってくる。
一方、カレンも順調に
治療を進められているみたい。


――もう少しの辛抱だ。
 
 

マイル

トーヤくん!

 
 
僕が攻撃を続けていると、
マイルさんが慌てた様子でやってきた。

両隣には護衛の傭兵さんたちもいる。
 
 

トーヤ

マイルさんっ!?
出てきちゃ危ないですよっ!

マイル

いやいやいやっ!
僕のことなら心配ご無用だ!
それよりもトーヤくんこそ
大丈夫なのかい?

マイル

司令室から目撃したのだが、
さっきバジリスクの光線を
食らっていなかったか?

トーヤ

……そのはずなんですけど、
何ともないんです。

マイル

ふむ……そうか……。
何か特殊な装備でも?

トーヤ

いえ、皆さんと同じですよ。

 
 
僕がそう答えると、
マイルさんは腕組みをして
『ふむぅ……』と言いながら首を傾げた。

でもすぐに眉を開いて僕を見つめてくる。
 
 

マイル

まぁ、なんにしても
無事ならば良かった。

トーヤ

僕なら大丈夫ですから、
マイルさんは
避難していてください。

マイル

僕も戦うよ。アイツには
クロードを痛めつけてくれた礼を
しなければならないからな。

マイル

だが、あの光線はやはり厄介。
そこで、だ!
トーヤくんにはこれを使って
あの光線を封じてほしい。

 
 
そう言って、マイルさんはポケットの中から
丁寧に折りたたまれた布の包みを取り出した。

そしてそれを左の手のひらに載せ、
右手の指で開いていく。



するとその中にあったのは
指先くらいの大きさの金属球だった。

無垢な白い輝きを放っていてとてもきれいだ。
 
 

トーヤ

これは?

マイル

銀の弾だ。

トーヤ

――っ!? ぎ、銀っ!

 
 
ビックリして、思わず仰け反ってしまった。



――銀は僕たち魔族にとって厄介な金属だ。

破邪の力が秘められているので、
これで作られたもので攻撃されると
精神や肉体に大きなダメージを受けてしまう。


だから魔族は本能的に敬遠するんだよね……。
 
 

マイル

ははは、恐れることはない。
確かに僕ら魔族にとって
銀は驚異となり得る金属だ。

マイル

だが、銀そのものは
金属の一種に過ぎない。
そうだろう?

トーヤ

で、でも……。

マイル

トーヤくんだって調薬の時に
銀製の道具を
使うことがあるのではないか?

トーヤ

えぇ、たまに……。
だけど気分的には
使いたくないって思ってますよ。

マイル

これがバジリスクに命中すれば
特殊な能力を封じられるはず。
あとは僕がシャムシールで
アイツを切り刻んでやるさ。

 
 
見るとマイルさんの腰には
豪華な装飾が施された曲剣があった。


マイルさん自身も戦う力が強いのかな?
 
 

マイル

この1発をトーヤくんに託そう。
一応、予備は何発かあるが、
その時は実費で負担してもらう。
だからしっかり狙ってくれよ?

トーヤ

えぇっ!? 実費っ?

マイル

ふふ、冗談だっ♪
だが、数に限りがあるのは確かだ。
頼んだぞ!

 
 
マイルさんは銀の弾を僕に握らせ、
さらに予備の弾が入った革袋を床に置いた。

そしてニカッと白い歯を見せてから
傭兵さんたちと一緒に出入り口へ走っていった。


こうして僕は再び1人になる。
 
 

トーヤ

……ゴクリ。


  
僕はあらためて、
手の中にある銀の弾を見つめた。


――今まで使っていた鉄の弾と比べて
ずっしりと重い。
そして白く眩く輝いている。

もし僕ら魔族がこんなのを当てられたら、
例え弱い衝撃であっても
地獄の苦しみを味わうことになる。



デリンさんみたいに
ある程度の力を持った魔族なら
あまり影響がないかもしれない。

でも僕のように弱い魔族は
当たり所が悪かったら死んでしまう。
銀の持つ破邪の力はそれくらい強いのだ。

ずっと持っていると気持ちが悪くなってくるし。



だから本当は僕、
銀って扱いたくないんだよなぁ……。
 
 

トーヤ

――でも、今はそんなこと
言ってられない!

 
 
僕は意を決して
銀の弾をフォーチュンにセットした。

そして狙いを定め、バジリスクに向けて放つ!
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第48幕 理由は分からないけど……

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