先生はそう宣言する
静寂・・・
静寂・・・
静寂・・・
歓声が上がることはない
そこまで!
試合終了!
クロウ・バーロットの勝利とする!
先生はそう宣言する
静寂・・・
静寂・・・
静寂・・・
歓声が上がることはない
お、おい・・・あいつ、勝っちまったぞ
ルードってたしか結構強かったわよね?
・・・そんな
うそだ、ありえない
周りの人たちの口々からそう聞こえる
中にはインチキだという声もある
誰も僕が勝ったことを受け入れない
勝者は敗者に命令を下せる
明日までに命令を考えて置くように
先生が締めの言葉を言った
ふざけるな!
言い終わるやいなや目の前のルードが叫ぶ
どうやら納得していないらしい
俺が負けるわけがないだろう!
この試合は無効だ!
やり直せ!
僕の負けを認めないルードはやり直しを要求してきた
そ・・・そうだ、ルードがまけるなんてありえない
どうせズルしたんだろう!
そ、そうよ
ルードがまけるなんてありえないわ!
それにあの平民、態度が悪いんじゃないの!?
不敬罪だわ!
納得のいかない周りの声が響き渡る
僕は何もいえない
プライドの高い貴族の子供たちはとうとう不敬罪だなどとも言い出すし
正直何を言っても今は無駄だろう
クロウさん!
・・・ツ!
はい
お疲れ様でした
かっこよかったですよ
退場しようとした僕にリーダさんが話しかけてきた
こんな状態で僕の方に来てくれるのは相当な勇気がいるだろう
とてもうれしかった
僕はそのまま退場しようとする
隣にはリーダさんが歩いてきてくれた
・・・
ありがとうございます
おい!
逃げるな!
後ろから呼び止めの声が掛かる
貴様・・・
貴様の名前、バーロットとかいったな
それはこの国にすんでいるのか?
俺にこんな思いをさせたんだ
ただで済むと思うなよ・・・
・・・今この人はなんていった?
僕だけならまだしもバーロット・・・ラックさんに対して言ったのか?
それだけは・・・
全身に魔力を纏わせる
まぁ貴様のような礼儀知らずを育てた親なんて高が知れているだろ・・・
・・・黙れ
言葉をさえぎるように被せる
沸々と怒りの感情がわいてくる
貴様・・・今なんと言った?
平民ごときが貴族に指図をするな!
黙れ!
気が付けば僕は彼の元まで走っていた
魔力で思いっきり身体強化をして
自分では普段絶対にしないであろう言葉遣いをしていた
それほどまでに僕を育ててくれたラックさんを馬鹿にしたことに対する怒りは大きい
あの人を馬鹿にするな!
恐らく彼には僕が目の前に急に現れたように見えるんだろう
僕も自分で自分の速さに驚いている
剣を構えるよりも先に拳の方が先に出る
ひ!
勢いよく音が響く
だが僕の拳が彼に届くことはなかった
おーおー
良いパンチ持ってるねぇ
そらこいつら負けるわ
あ・・・先生・・・?
一気に我に返る
今のは完全に自分を見失った結果の浅はかな行動だ
言葉が見つからない
あーあー
小便たらしちまってるよこいつ
運ぶの嫌だぞ俺
驚くことにレイク先生は僕の拳を片腕で止めていた
そこそこの威力があると自分でも確信している
それをこの人は片腕だけで受け止めきってしまった
そして肝心なルードの方を見る
・・・起きてくる様子はない
気絶してしまったんだろう
クロウさん!
リーダさんの声が聞こえてくる
気にすることはないですよ
今のは誰が見ても彼が悪いんでs
あなたが気にするようなことは何一つありません
見渡すと当たりは”シン”となっていた
どうやら周りの人たちも何もいえないようだ
とりあえずこの試合はお前の勝ちだ
それは絶対に覆らん
今日はもう寮に行って寝ろ
明日から授業だ
寮の場所は分かるな?
あ!
私が案内しますよ!
んじゃあリーダ・・・だったか?
クロウと一緒に行って案内してやれ
ほかのやつらも解散だ
早く帰って寝ろ!
しばらく生徒たちが動き出すことはなかった
僕は”グイ”とリーダさんに腕を引かれる
ほら!
行きましょう?
・・・はい
手を引かれるがまま歩いていく
闘技場の外に出ると人影があった
あ~
きました~
クロウさんって本当に強かったんですね~
目の前で見て圧倒されましたよ!
ミラさんとセリアさんがいた
どうやら待っていてくれたらしい
いつの間に外に出ていたんだろう・・・
そんな考えは置いておいて僕は
いえ・・・そんな・・・別に
曖昧に返すことしか出来ない
そんな僕を見てミラさんは気を利かしてくれたんだろう
話題を切り出した
ささ、もう今日は寮へ行きましょう
ここの寮は広いんですよ~
背中を押される
っと、わわ!
されるがままに背中を押される
それにセリアさんとリーダさんが付いてくる
いやぁ~さっきの試合クロウさんの試合もさることながら
リーダの顔もすごかったんですよ~
歩いている途中でセリアさんから言葉が飛び出す
クロウさんが攻撃されるたびに悲鳴を上げそうになったり泣きそうになったり
いや~見ていて面白かったです
え?
・・・リーダさんが?
ふ、とリーダさんの顔を見る
そ、そんな!
私はただ心配で!
あわてて弁解をするリーダさんにさらに追い討ちをミラさんが掛ける
ああ~確かに
私も心配をしていましたけど
リーダさんはそれ以上でしたね~
ミラさんの言葉にリーダさんはもう何も言えなくなる
顔を真っ赤にしてうつむいてしまった
・・・ありがとうございます
僕はこんなやり取りがたまらなくうれしかった
だからせめて、今は口だけでもお礼を言っておこう
友達なんですから心配もします・・・
・・・もう無理はしないでくださいね?
ええ、もちろん
これからは気をつけます
あ~ずるい!
私もお友達のつもりだったのに~!
なんだか除け者みたいです~!
ま、まぁまぁミラ様
いいじゃないですか解決したんですし
皆友達ってことにしましょ?
セ、セリアさん?
皆って事は・・・
え?もしかして私だけ仲間はずれですか?
そうなんですか!?
い、いえ、
そんなことは・・・
ならいいじゃないですか
ここにいる人たちは皆友達です~
周りがどう言おうと私たちは味方ですよ~
・・・ですね
涙腺が緩む
確かに回りからは受け入れてもらえないかもしれない
でもこれだけの人が僕を受け入れてくれた
属性なしで落ちこぼれと言われた・・・出来損ないといわれた僕を
今はその皆の優しさに甘えるとしよう
あ!着きましたよ~
あれがこの学院の寮です~