午後になり、とうとう雨が降り出した。

これでは外に出かけるのも億劫なので、
リビングでなんとなくテレビを眺める。
 
 

三崎 凪砂

何か面白そうな番組
やってるかな?

 
 
俺はテレビのリモコンを操作して、
適当に番組を眺めていく。
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 

次のニュースです。
本日、都内の高校で――

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

犯人が分かりました。
まさかこんなトリックを――

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

♪♪~♪♪♪~!!!

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
色々な放送局を見ていくけど、
土曜日の昼間はドラマの再放送や旅番組ばかり。

俺はあまり興味をそそられない。
 
 

三崎 凪砂

スマホでゲームでもしよう……。

 
 
俺はテレビの電源を切ろうとした。

でもその時、画面には美味しそうな料理や
海の景色などがダイジェストで映し出される。
どうやら旅番組が始まったらしい。


なぜか手が止まり、なんとなく見てしまう。
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 

春はたくさんの花!

 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 

夏は海水浴!

 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 

秋は紅葉!

 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 

冬は初日の出!

 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 

一年を通して
魅力が満載ですよ~っ!

 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 

三崎 凪砂

――っ!?

 
 
心臓が大きく脈動した。

なぜなら一瞬だけ映った景色の中に
夢に出てきた海岸があったからだ。



俺は慌ててレコーダーを操作し、
その番組の録画を開始する。
これであとで情報をゆっくり確認できる。

一方で番組終了まで
リアルタイムでも見てしまったのだった。
 
 
 
 
 

 
 
――結果、番組にはあの海岸の景色が
何度か映っていた。
矢形(やかた)市の
富須磨(ふすま)海岸というところらしい。

ちなみにその地域の紹介もあったが、
やはり俺は行ったことがない。
つまりあれは既視感(デジャビュ)という
やつなんだろう。


だけどデジャビュで片付けるには
どうしても納得できない。
だってあんなに印象が強いわけだし……。
 
 

三崎 凪砂

春休みで時間があるし、
行ってみるか……。

 
 
百聞は一見にしかず――。

行けば全てがハッキリするし、
何もなかったとしても
その時は観光を楽しんでくればいい。

だから俺はそこへ行ってみることにした。



ただ、1人で遠出をしたことがないし、
泊まりがけになるなら
両親を説得しないといけない。

それがメンドいんだよな……。
  
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
その日の夕食が終わったあと、
俺はダイニングで両親に旅をしたいと
打ち明けた。
 
 

凪砂の父

え? 泊まりがけで
旅行に行きたい?

三崎 凪砂

うん、春休みだし。
1人で旅をしてみたいんだ。

凪砂の母

……悪さでもしようと
考えてるんじゃないだろうね?
警察沙汰は勘弁だよ?

三崎 凪砂

しねーよッ!

 
 
すかさずツッコミを入れる俺。

でも依然として母さんは訝しげな目を
こちらに向けている。
そんなに信用なかったのかよ、俺って……。

今まで真面目に生きてきたつもりなのに。
 
 

凪砂の父

――ま、いいだろう。
で、どこへ行くつもりなんだ?
泊まる場所や目的地は
決まっているのか?

三崎 凪砂

目的地は決まってるけど、
泊まる場所はこれから調べる。

三崎 凪砂

俺、矢形市ってところに
行こうと思ってる。

凪砂の父

何っ!?

凪砂の母

えっ!?

 
 
父さんと母さんは同時に驚愕の声をあげた。

そしてお互いに顔を見合わせたあと、
動揺した様子で俺の様子をうかがっている。



――なんなの、その反応?

俺の方が戸惑うんだけど。
それとも矢形市に何かあるんだろうか……。
 
 

三崎 凪砂

どうしたんだよ?
なんでそんなに驚いてんだ?

凪砂の父

矢形市のどこに行くんだ?

三崎 凪砂

えっと、
確か富須磨海岸ってトコ。

凪砂の父

…………。

凪砂の父

……お前、そこへ
何をしに行くつもりだ?

 
 
なぜか父さんの視線が鋭くなっていた。
語気も少し荒げている気がする。

一方、母さんはなぜか眉を曇らせ、
口を閉ざしてしまっている。
 
 

三崎 凪砂

だから観光だよ。

凪砂の父

それだけか?

三崎 凪砂

うん、それだけ。

凪砂の父

なんで矢形市なんだ?

三崎 凪砂

え?

 
 
俺はドキッとして一瞬、口ごもってしまった。

だって夢で見た景色を確かめに行きたいなんて、
突拍子もない動機だから。
そんな話をしても信じてもらえるとは思えない。


だからこの場は適当な理由を考えて
誤魔化すことにする。
 
 

三崎 凪砂

昼間にテレビの旅番組で見て、
行ってみたいなって思ったんだ。

三崎 凪砂

それは嘘じゃないし……。

凪砂の父

…………。

 
 
父さんはジッと俺の顔を見ていた。

どことなく気まずい感じがして、
俺は思わず視線を逸らしてしまう。


――ちょっと怪しまれたかもしれない。


でもその不安に反して、
父さんは納得したような顔で静かに頷いた。
 
 

凪砂の父

……そうか、分かった。
気をつけて行ってこい。

凪砂の母

お父さんっ!
私は反対よっ!!

三崎 凪砂

――っ?
なんで母さんはこんなに
強く反対するんだ?

凪砂の母

だってもし
万が一のことがあったら……。

凪砂の父

大丈夫さ。
コイツだっていつまでも
子どもじゃないんだ。
きっと1人で歩いていける。

凪砂の母

…………。

 
 
母さんは俯いて、それっきり黙ってしまった。


……そうか、
旅先でトラブルに遭う可能性だってあるもんな。
実際、俺は幼いころに
交通事故に遭っているわけだし。



でも心配してくれるんだから嬉しいよな……。
 
 

凪砂の父

凪砂、実はその町には
俺の知り合いがいるんだ。
民宿を経営しているから
紹介してやる。

三崎 凪砂

えっ?
い、いいよ、そんなのっ!
お互いに気を使うし……。

凪砂の父

そう言うな。
俺の顔も立ててくれ。
その代わり、
交通費と宿代は出してやる。

三崎 凪砂

マジか?

凪砂の父

悪くない条件だろう?

三崎 凪砂

う……うーん……
まぁ、そういうことなら……。

凪砂の母

絶対に無事で帰ってくるのよ?
それだけは約束して。

三崎 凪砂

うん、もちろんだよ!
約束するっ!!

 
 
自分の小遣いを使わずに行けるなんて、
願ってもない話だ。
これは嬉しい誤算かもしれない。

断る理由もないので、
俺は父さんの提案を受け入れた。



こうして俺は3日後に
矢形市へと旅立つことにしたのだった。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第2片 夢で見た場所へ!

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