甲板に出るてみると、
そこには酷い光景が広がっていた。

苦痛に満ちた表情のまま石化している人や
毒に冒されて倒れたまま事切れている人などが
あちこちにいる。
 
 

カレン

なんてことなの……。

セーラ

見てくださいぃ!
船の横で
まだ戦っている人たちがいますぅ!

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

船員

くそぉっ!

傭兵

くっ……。

 
 
 

ギャオォオオオォーン!

 
 
 
 
 
船の縁から下を見てみると、
そこでは巨大なモンスターと戦い続けている
何人かの姿が見えた。


ただ、みんな体中に怪我をしていて動きが鈍い。
いつ致命傷を食らってもおかしくない状態だ。

砂の上には倒れたままの人もたくさんいる。
 
 

セーラ

すぐに援護に向かいましょ~っ!

トーヤ

待ってください。
このままだと怪我をした人たちの
治療ができません。

トーヤ

バジリスクの注意を逸らさないと、
無防備な状態で
攻撃を受けてしまいます。

カレン

確かにそうね……。

トーヤ

僕がこの甲板から
フォーチュンで攻撃します。
ここならバジリスクの直接攻撃は
届きませんから。

トーヤ

その間にカレンは
みんなの手当てを。
セーラさんは万が一の時に
カレンを守ってあげてくださいっ!

セーラ

でもでもぉ、
その間はトーヤくんがバジリスクに
狙われちゃうんですよぉ?
魔法を使ってくるかもぉ……。

 
その可能性は否定できない。
目から危険な光線を放ってくるって
クロードさんも言ってたしね。


――だからこそ、この作戦の方がいい。
万が一の時、カレンは逃げられるもん。


僕はその考えを悟られないように
セーラさんに向かって素知らぬ振りをする。
そうしないと
カレンは絶対に反対するからね……。
 
 

トーヤ

手当てをするくらいの時間、
稼いでみせますよ。

セーラ

高い位置から下方向へ弾を放てば
確かに弾の攻撃力は上がりますぅ。
落下するエネルギーが
加わりますからねぇ。

トーヤ

そうなんですか?
それは知らなかったです。
だったらなおさら
都合いいじゃないですか。

セーラ

その代わりぃ、
空気抵抗で弾道が複雑になって
命中率は下がるんですよぉ?

セーラ

トーヤくんは上から下へ向かって
弾を放ったことありませんよねぇ?

トーヤ

何度か試していれば
コツくらい掴めますよ。
それに――

トーヤ

フォーチュンならきっと
僕の想いに応えてくれます。
なんといっても
名工セーラが作った武器ですから!

セーラ

トーヤくん……。

 
セーラさんは嬉しそうな顔をしていた。


でも今の言葉は決してお世辞なんかじゃない。

セーラさんの作った武器を、
フォーチュンの力を信じているから
この作戦でいけると僕は思ったんだ。
 
 

セーラ

分かったのですぅ。
その作戦でいきましょ~っ!

カレン

トーヤ、無理はしないでね?

トーヤ

うん、危ないと感じたら
船内へ避難するよ。

セーラ

ではではぁ、
せめて魔法を反射する盾は
トーヤくんが使ってくださいぃっ!

カレン

アポロに対して使ったやつですね。

トーヤ

いえ、それは最前線にいる
セーラさんたちが持っていてこそ
意味があります。

トーヤ

バジリスクから
離れた位置にいるので、
僕はきっと大丈夫ですよ!

セーラ

トーヤくん……。

トーヤ

さぁ、早く行ってください!
治療が遅れたら
助けられる人も助けられなくなります。

カレン

セーラさん、トーヤを信じて
私たちは行きましょう!
一刻を争います!

セーラ

は、はいですぅ……。

 
セーラさんは戸惑いつつも、
中に様々な薬が入っている僕の鞄を担いだ。

そしてカレンとともに階段を駆け下りていく。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

トーヤ

さて……と……。

 
僕は2人を見送ったあと、
フォーチュンに小さな金属塊をセットした。
これは周りに石がない場所で使う時のために
セーラさんが用意してくれていたものだ。


数に限りがあるから無駄にはしたくないけど、
そんなことは気にしていられない。
今はあのバジリスクを攻撃して
注意をこちらに惹きつけなければならないから。

運良く倒せれば最高だけど、それは無理だよね。
僕が倒せる程度の相手なら
もう決着がついているはずだもん。
 
 

トーヤ

よく狙わないと……。

 
僕は遠くで暴れているバジリスクを
じっくり観察した。

そんなに機敏に動き回っているわけではないし、
的が大きいから比較的狙いやすい。

――これならいけそうだ!



そして僕は狙いを定め、
タイミングを見計らって弾を放つ!
 
 
 
 
 
 
 
 

トーヤ

いっけぇええええぇ~っ!

 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
フォーチュンから飛び出した弾は
バジリスクに向かって進んでいった。

弾道はやや上下左右に揺れつつも、
なんとか足の付け根あたりに命中する!
 
 
 
 
 

ギャオオオオォーン!

 
 
 
 
 

トーヤ

やったっ! けど……。

トーヤ

思った以上に弾道が変化する。
今回はたまたま当たったけど、
次も当てられるかどうか……。

 
僕はもっと上の方、
しかも胴体の中心を狙ったはずだった。
それなのに当たったのは足の付け根。

もっと上を狙わないとダメか……。


間髪を入れず、僕は次の弾をセットした。
そしてさっきよりも上を狙って放つ。
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 

トーヤ

っ! 外したっ!?

 
弾はバジリスクの頭の上を越えていった。


さっきと比べて、
狙いをわずかに上へずらしただけなのに。

この程度の差でこんなにも飛んでいく位置が
変わるなんてっ!
セーラさんの言った通り、狙うのが難しい!!
 
 

ぐるるるる……。

 
 
 

トーヤ

っ!?

 
バジリスクはこちらに向かって
ゆっくりと歩き出した。
どうやら狙いを僕に定めたみたいだ。

――でも、これでとりあえず作戦は成功。


今、カレンは船から出て治療を始めている。
あとは彼女たちが戦闘に加わるまで、
持ちこたえるだけだ。
 
 

トーヤ

よーっし、こっちに来ーいっ!

 
 
 
――ビュン、ビュン!
 
 
 

 
僕は新しい弾を込め、次々と放っていった。
まだ外れる弾は多いけど、
少しずつ命中率は上がってきている。

フォーチュンが僕の想いに応えてくれている!
 
 

トーヤ

さぁ、次の攻撃だっ!
今度も当ててやるっ!!

 
僕は次の弾をセットして
フォーチュンの柄を握りしめた。

そしてそれを振りかざそうと縁から顔を出す。
 
 
 
 
 

トーヤ

――っ!?

 
不意に目の前が明るくなった。

直後、それがバジリスクの目から放たれた光だと
直感的に気付く。
 
 

トーヤ

しまっ……た……。

 
投てき体制に入っている最中で
今さら避けられる余裕なんてない。

世界が……眩い光の中に包まれていく……。
 
 
 
 
 
 
 
 

カレン

トーヤァアアアァ~ッ!

 
下の方からカレンの悲鳴のようなものが
かすかに聞こえた……。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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