ポートゲートを出発して10日目。
目的地のサンドパークまで
ようやく半分を過ぎたところらしい。
今日も酔い止めの薬を作ったり、
体調が悪くなった人への薬を作ったり、
忙しい一日だった。
やっていることは王城にいた時と
そんなに変わらないような気がする。
でも窓の外を見てみると、
そこに広がっているのはどこまでも続く砂漠。
その景色の全てが夕焼け色に染まっている。
それで自分の置かれている環境は
王城と大きく違うのだなぁと実感する。
ポートゲートを出発して10日目。
目的地のサンドパークまで
ようやく半分を過ぎたところらしい。
今日も酔い止めの薬を作ったり、
体調が悪くなった人への薬を作ったり、
忙しい一日だった。
やっていることは王城にいた時と
そんなに変わらないような気がする。
でも窓の外を見てみると、
そこに広がっているのはどこまでも続く砂漠。
その景色の全てが夕焼け色に染まっている。
それで自分の置かれている環境は
王城と大きく違うのだなぁと実感する。
お疲れ様、カレン。
今日の仕事はこれくらいにしよう。
そうねっ♪
僕たちは道具を片付け、
作業をしている部屋を出た。
そして自分たちの船室へ向かって歩いていく。
するとその途中、
前方からマイルさんがやってきて
僕たちに声を掛けてくる。
ふたりとも、お疲れ様っ!
これから作業室へ
向かうところだったんだ。
すれ違いにならなくて良かったよ。
どうしたんですか?
急患ですか?
いやいや、もし急患なら
もっと慌てているだろう?
確かにそうですね。
今夜、一緒に食事でもと思って
誘いに来たのさ。
キミたちはお客さんなのに
仕事をしてもらっていて
悪いからね。
本当に助かっているよ。
苦しんでいる人を見て
放ってはおけませんから。
それにお客さんといっても
半分は関係者みたいな
感じじゃないですか。
お気になさらないでください。
本当にキミたちはいいヤツらだ。
何かあったら遠慮なく言ってくれ。
可能な限り協力する。
ありがとうございますっ!
――その時だった。
急に周りが大きく揺れて、
僕たちは転びそうになってしまった。
どうやら船が急ブレーキを掛けたみたい。
お客さんか船員さんかは分からないけど、
通路の奥から悲鳴やどよめきが聞こえてくる。
それから程なく1人の船員さんが
マイルさんのところへ真っ直ぐ走ってきて
何かを報告しようとしていた。
でも大きく息を切らしていて
なかなか声が出せないでいる。
かなり慌てているというか、顔色は真っ青だ。
それから少し息が整ったところで
ようやく口を開く。
マイル様っ、大変ですっ!
どうしたっ?
船の前方に
バジリスクが現れましたっ!
なんだ、バジリスクか……。
あいつらなら
たまに遭遇しているだろう。
いつも通りに対処しろ。
そ、それがっ、
体長数メートルほどの
巨大なバジリスクなんですっ!
それを聞くとマイルさんの顔色が変わった。
取引相手と駆け引きをするスキルがある
商人さんなのに、
ここまで感情を露わにするなんて珍しい。
……いや、つまりそれだけ
深刻な事態ってことなんじゃないの?
そんなバカなっ!
ヤツらはせいぜい1メートル程度!
今まで出遭ったことのない
大きさだぞっ?
すでに見張りの船員が数名、
石化されてしまっています!
チッ! 石化を防ぐアイテムを
護衛担当に装備させろ!
乗客は船室に避難させて
外に出さないようにするんだ!
はいっ!
指示を受けた船員さんは
即座に客室の方へ駆けていった。
そのあと、マイルさんは厳しい顔をして
僕たちへ視線を向ける。
ふたりとも、
悪いが僕はブリッジへ戻る。
話の続きはまたのちほどっ!
あ……はい……。
マイルさんは来た道を慌てて戻っていった。
それを呆然と見送る僕とカレン。
その直後から誰かの叫び声とか
怒号が遠くから聞こえてくるようになる。
ねぇ、カレン。
マイルさんたちの話していた
バジリスクって知ってる?
話だけは聞いたことがあるわ。
モンスターの一種で、
睨まれただけで石化や毒などの
状態異常を引き起こすみたい。
えぇっ!? それは厄介だね……。
でもあいつらには弱点もあってね、
鏡で視線を跳ね返せるのよ。
それで自分も状態異常を起こすの。
そうなんだ……。
私たちは船室に戻って
静かにしていましょう。
護衛担当がいるみたいだし、
きっと大丈夫よ。
そうだね、
邪魔になったら悪いもんね。
僕たちは船室に向かって歩き出した。
たまに船が大きく揺れたり、
怪物の叫び声みたいなものが
壁の向こう側から響いてくる。
……それと悲鳴とか爆発音も。
大丈夫だと自分の心に言い聞かせつつも、
嫌な予感しかしなくて落ち着かない。
なんでかな……。
そんな矢先、通路の先からセーラさんが
誰かを背負って駆けてくる。
かなり焦っている感じだ。
トーヤくぅん、カレンちゃ~ん!
セーラさんっ!?
それにクロードさんっ!
…………。
背負われていたのはクロードさんだった。
肌は赤黒く変色していて呼吸も弱い。
体もグッタリしている。
この症状は、まさか――っ!
彼は猛毒に冒されてるっ!
うん、マズイよ、これっ!
かなり体に回っちゃってる!
セーラさん、このまま彼を
船室へ運んでくださいっ!
はいですぅっ!
トーヤっ! 即効タイプの解毒薬!
そうね、ポイズナーゼがいいわ!
分かった!
僕たちは急いで船室へ戻り、
クロードさんに解毒薬を注射した。
すでに何かを飲み込む力がなくて、
経口では無理だったから。
薬が詰まって息ができなくなる恐れもあるしね。
……でもこんな猛毒を持つモンスターって
あまりいないはずなんだけど。
バジリスクってかなり危険な相手なんだね。
ふぅ……。
処置があと少し遅れていたら
命を落としていたところだったわ。
でももう大丈夫。
このまま安静にしていれば
すぐに回復するでしょう。
おかしいのですぅ。
彼はあらゆる状態異常を防ぐ
アイテムを
身につけているのですぅ。
それなのに
こんなことになるなんてぇ……。
えっ? そうなんですか?
彼はこの状態で
船室まで辿り着いたのですぅ。
その瞬間に
意識を失ってしまってぇ……。
外で戦っている人たちが心配だわ。
薬を持って治療に行こうよ!
もう手遅れの人も
いるかもしれないけど……。
……そうね、行きましょう!
私もサポートするのですぅ!
僕たちは戦いの準備をすることにした。
まず忘れてはならないのが解毒薬や回復薬。
傷付いた人の治療をしなければならないから
鞄に詰められるだけ詰めていく。
そのあとはセーラさんから手渡された指輪。
これには状態異常を防ぐ効果があるらしい。
でもクロードさんはそれでも毒に
冒されちゃったんだよね……。
だから安心はできないけど、ないよりはマシだ。
そして僕は相棒のフォーチュンを手にする。
久しぶりの出番。
今回もキミのお世話になるからねっ!
お待ち……を……。
僕たちが船室を出ようとした時、
ベッドで横になっていたクロードさんが
這いつくばったまま僕たちに声を掛けてきた。
まだ毒の後遺症が残っているのか、
体が微かに痙攣している。
表情も苦痛で歪んでいる。
クロードさんっ!
意識が戻ったんですね?
やつは……
ただのバジリスクでは……
ありません……。
光線に……気をつけ……て……。
光線……ですか……?
目から……放たれる光線は……
アイテムの効果を無視して……
状態異常を……。
分かりましたから、
無理はしないでくださいっ!
カレンは慌ててクロードさんに駆け寄り、
再び彼を寝かせた。
そしてドアにカギを掛けて通路へと出る。
目から出る光線には
気をつけないといけないわね。
どうやらそれが
原因みたいだもんね。
トーヤくん、カレンちゃん。
注意して行きましょ~!
はいっ!
承知ですっ!
僕たちは気を引き締め、甲板へと向かった。
――まずはどんな相手なのか、探らなきゃ!
次回へ続く!