もふコロ展を思う存分堪能し、途中でルイヴェルと別れたユキ達は、昼食をとる為にレストランへと入っていた。
メニュー表をぺらり、ぺらり、と捲りながら待つ事三十分、いまだにルイヴェルは来ない。
ルイおにいちゃん、来ないね~。
申し訳ありません、ユキ姫様。すぐに追いつくと言っていたのですが……。
もふコロ展を思う存分堪能し、途中でルイヴェルと別れたユキ達は、昼食をとる為にレストランへと入っていた。
メニュー表をぺらり、ぺらり、と捲りながら待つ事三十分、いまだにルイヴェルは来ない。
だいじょうぶ!! ユキ、まだ頑張って待てるよ!!
あぁっ、もうっ!! ユキ姫様は本当にお利口さんですね!! もうルイヴェルなんか放っておいて、先に注文を済ませてしまいましょう!!
えぇっ!? いいのぉ?
勿論ですとも!! さぁさぁ、何が食べたいですか? 全部ルイヴェルの奢りで頼んじゃいましょうね~!!
わぁい!! じゃあね、じゃあね~、ユキ、オムライスが良い!!
すぐ隣からメニュー表を差し出してくれたセレスフィーナに頭を撫でられながら、ユキは食べたいものを指さす。
ルイおにいちゃん、ルイおにいちゃんと言っていたのはどこへやら、やはりお子様な王兄姫であった。
最早、メニュー表の中の美味しそうな料理の写真にしか興味がないようだ。
それにしても……、本当に遅いわねぇ。魔道店に用があるって言っていたけれど、一体何をやってるのかしら、あの子。
ねぇ、セレスおねえちゃん。あれ、なにかなぁ? おねえちゃんの名前を呼んでるよ~?
座っている席の窓から見える大通りの向こうから、確かにセレスフィーナを呼ぶ声が聞こえてくる。
恐らく、彼女の事を捜しているのだろうが、徐々に近くなってくる年若い男の姿に、セレスフィーナは首を傾げている。
見覚えがない。そんな感じで。
どちら様……?
――フィーナさ~ん! セレスフィーナさ~ん!! どこに行ってしまわれたんですか~!!
セレスおねえちゃん、知らないの?
……全然。
あぁっ!! 愛しの女神!! この町でお見かけし、急ぎ贈り物を用意し後を追ったというのに!! マイハニー、セレスフィーナさん!! どこにおられるのですか~!!
全然知らない方になんだけど……、ああいうの、やめてくれないかしら。……恥ずかしい。
でも、なんか楽しそうだよ~?
そう、ですね……。あの方は楽しいのでしょうけど、名前を連呼されている私は、ちょっと……。
まだまだ幼い子供のユキにはわからない大人の事情があるのだろうか。
窓の外に身を乗り出したユキは、どんどんこっちに迫ってくる男の姿に、きゃっきゃっとはしゃいでいる。――と、その時。
……。
……。
今、セレスフィーナの名を連呼していた男を中心に、とんでもない爆発が起こったような……。
暫し放心状態で動きを止めてしまったユキとセレスフィーナは、徐々に晴れてきた煙の向こうに、ある人物の姿を見た。
人の姉の名を気安く呼びながら、よくもまぁ、恥知らずな大声を張り上げながら歩いてくれたものだな……。
う、うぅ……。せ、セレスフィーナ、さん……っ。今日こそ、あ、愛の、こ、告白、をっ。
ほぉ……、まだ動くか。意外にしぶといな。
ユキとセレスフィーナと一旦別れ、魔道具店や薬草店を見てまわっていたルイヴェルだが、まさか合流する前に、――『虫』が視界に入る事になるとはな。
ルイヴェルが大切にしている家族、双子の姉の名を呼びまわりながら走っていた男は、炎撃の術を受けて沈めたつもりだったが、手加減しすぎたようだ。
それで?
まだセレス姉さんを求めて這い上がるつもりか?
ぐぅうっ、せめて、せめて……、あの美しい白い手に、ぎゅっと握手をされてみたい!!
……ふっ。
……あのおにいちゃん、お空の向こうに飛んで行っちゃったね。
……はぁ。
他所の町の大通りで、本当に何をやっているのだか……。
愛する双子の姉を守るべく、大魔王と化したルイヴェルは、建物や住人には被害を出さず、あの求愛男だけを綺麗に吹き飛ばしてしまった。
纏っていた服装からして、恐らくあの男性は……、ウォルヴァンシア王国の貴族。
レイフィード陛下に……、後でご迷惑がかからなければいいのだけど。もう……、あの子ったら。
レストランに近づいてくる弟の姿を眺めながら、セレスフィーナはやれやれと息を吐き出すのだった。
待たせてすまなかったな、セレス姉さん、ユキ。少々そこで……、道を塞いでいる面倒な虫を駆除するのに手間取った。
何が虫よ!!
無抵抗の相手にあ~んな事して!!
暴力的な事は駄目だって、いつも言ってるでしょうが!!
ルイおにいちゃん、おかえりなさ~い!!
あぁ、今戻ったぞ、ユキ。良い子にしていたか?
えへへ~。ちゃんと良い子にしてたよ~。
そうかそうか。
よし、もっと撫でてやろう。
ぐっ!!
話をスルーするんじゃありません!!
別にいいじゃないか。セレス姉さんだって、あんな意味不明な求愛男から迫られたくはないだろう?
確かにご遠慮したい部類の方だったけど、貴方のやり方は度を越してるの!! 毎回毎回……っ、くどくどくどくどくど(エンドレス)
わかったわかった、次から気を付けよう。……気が向いたらな。
全然反省してないじゃないの!!
あの~、お客様、ご注文のメニューをお持ちしました~。置いてもよろしいですか?
あらやだ、ごめんなさいね。並べてちょうだい。
はい! かしこまりました~!!
わぁい♪ ごっはん、ごっはん~♪
あぁ、オムライスか。ちゃんとデザートにプリンも頼んだか? 上手にねだる事が出来たら、俺が食べさせてやってもいいぞ?
ひとりで食べられるも~ん!!
……ユキ。俺の提案を却下するとは、いい度胸だな。
ルイヴェル!! 貴方が構ってもらいたいだけでしょうが!! ほら、さっさと頼んじゃいなさい!!
ふん……。
遅くなった昼食の席は、始終セレスフィーナのお説教がルイヴェルに向かってぶつけられていたが、暢気で無邪気な王兄姫は、その光景さえも楽しみながらオムライスを頬張るのだった。