ユキ

んとね、今回は三日間お休みがあるから、こっちでのんびり出来るよ、って、お父さんが言ってたの~♪

セレスフィーナ

まぁ! 連休を頂けたのですね。それなら、明日にでも少し遠出など如何でしょう? ユキ姫様が見たいと仰っていたイベントが丁度開催中ですので、楽しい一日になるかと。

ユキ

それって、前にユキが言ってた『もふコロ展』のこと!? もふもふさんいっぱいの、あれ!?

セレスフィーナ

はい!! 医務室はルイヴェルに任せて、二人で参りましょう~♪

 ウォルヴァンシアの小さな王兄姫こと、ユキ・ウォルヴァンシアが手作りのプレゼントを携えて戻って来てから三時間後。
 ユキの散策に付き合い王宮の庭園内を同行していたセレスフィーナが素晴らしい朗報をもたらしてくれた。可愛いもふもふ、もふもふ、いっぱい……。 
 想像しただけでも小さな王兄姫殿下の喜び様は大きなものだった。
 普段は、元の世界で言うところの週末の二日間を使ってこの異世界に戻ってくるユキだが、今回は一日増えて三日! 大好きな王宮の面々と沢山遊べる上、素敵なイベントも完備されている!
 庭園内をはしゃぎ回りながら、ユキは子供らしい満面の笑顔で「もっふもふ~♪」と歌い続ける。

ユキ

もっふもふ~!! セレスお姉ちゃんともっふもふ~!!

セレスフィーナ

はい♪ もっふもふ~ですわ~♪

 心優しい王宮医師と約束を交わしたユキは、翌日、彼女と馬車に乗って遠くの町へと旅立つ事になった。

ニャァァ。みゃんっ。

ユキ

きゃっきゃっ、猫さん可愛い~!!

 翌日、セレスフィーナは小さな王兄姫をつれ、沢山の愛らしい動物が集められた『もふコロ展』を訪れていた。視界を楽しませている、もっふもふの動物達と戯れるユキ。その姿は思う存分抱き締めたくなるほどに天使過ぎて可愛すぎる。
 ずっと見ていたい、むしろずっとこの場所にいたい。しかし……、麗しの王宮医師は、小さな王兄姫の傍で一緒に動物をもふっている青年の姿に、溜息を吐かざるをえない。

ルイヴェル

ははっ、お前も一緒に埋もれてしまいそうだな、ユキ。

ユキ

だって可愛いんだも~ん!! ほら、ルイおにいちゃんも撫で撫でしよ~♪

ルイヴェル

ふっ、俺も愛らしい動物を可愛がっているから大丈夫だ。よしよし♪

セレスフィーナ

それはユキ姫様の頭でしょうが!! 勝手に動物扱いするんじゃありません!!

 そう……、セレスフィーナが素直に今の状況を楽しめないのは、目の前にいる双子の弟のせいだ。
 居残りを押し付けたのに、何故先回りでこの町に着いていたのか……、行き先を絶対に言わなかったのに何故!!
 さらに双子の弟ことルイヴェルは、動物達と戯れる愛らしい王兄姫の頭を撫で繰り回している始末だ。

みゃうぅぅんっ♪

ユキ

ふふっ、擽ったいよ~!! もふもふ!! 可愛い~!!

ルイヴェル

あぁ、本当に可愛いな。よしよし。

セレスフィーナ

お姉ちゃんを無視ってどういう事なのよ!! こら!! ルイヴェェェル!!

ルイヴェル

セレス姉さん、美しい顔が台無しだぞ。ほら、こっちで一緒にユキを可愛がろう。

セレスフィーナ

はぁ……、まったく、この弟は。

リュゥ~、リュリュッ。

セレスフィーナ

あら! 可愛い!! こちらにいらっしゃい。

 双子の弟のブレない王兄姫愛に疲労感を覚えつつ、セレスフィーナがもふもふの集団へと近づくと、彼女の傍へと両翼のある小さな動物が寄ってきた。つぶらな青いお目々がなんとも可愛らしい。

ユキ

セレスおねえちゃんに懐いてるね~♪

セレスフィーナ

日頃の疲れが癒されますね。ふふ、可愛い。

ルイヴェル

セレス姉さん、ユキ、もう少し寄ってくれ。記念に記録(シャルフォニア)を残そう。

 記録(シャルフォニア)とは、魔術による写真撮影や動画撮影の事である。
 自分の魔力領域へとその時の光景を収め、必要であれば紙や専門の媒体にコピーする事も出来る優れものだ。
 ルイヴェルはその魔術を発動させると、プロのカメラマンさながらに愛しの姉と王兄姫を撮影し始める。
 普段は冷静沈着な男のはずなのだが……、ユキがこちらの世界に戻ってくると、大抵このようにはしゃいでしまうのだ。

可愛らしいお客様、よろしければこちらの風船をどうぞ~♪

ユキ

おねえちゃん、ありがとう~!! ふふ、風船、ふうせ~ん♪

ルイヴェル

良かったな、ユキ。あぁ、すまないがもうひとつ貰えるだろうか?

セレスフィーナ

ルイヴェル?

 ユキの手にはピンク色の風船があるというのに、どうしてもうひとつ……。
 不思議そうに見ていたセレスフィーナは、イベントのスタッフから水色の風船を譲って貰った弟が自分の傍に来た事に嫌な予感を覚えた。まさか……。

ルイヴェル

次は風船つきで記録を残そう。

セレスフィーナ

ユキ姫様効果で、浮かれ様が凄まじいわね。

 馬鹿につける薬はないとよく言うが、ルイヴェルの場合は、自分と王兄姫に対する溺愛の度合いが半端ないこの弟にもまた、つける薬がない。
 僅かな連休が終われば、また別の世界に戻ってしまう小さな少女……。ユキのいない日々に耐える為とはわかっているのだが。

セレスフィーナ

仕方ない、か……。

 小さな王兄姫を想う気持ちは自分も同じ。
 セレスフィーナは大人しく風船を受け取ると、弟の注文に応え、写真撮影に興じるのだった。
 ――しかし、この『もふコロ展』を後にしたセレスフィーナ達は、予期せぬ事件を体験する事になる。

1-2・『もふコロ展』へ行こう♪

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