いい家族だよね
いい家族だよね
窓を開けると、ヤツは入ってきた。
あんたはー!
ママさんに行けって言われてさ……。
とりあえず閉めた。
人のせいにするんじゃないわよ。
だいたいどうやって来たのよ、ここ2階よ!
えー、楽勝っしょ。
海の上で小舟を飛び回るようなヤツだった……。
…………。
帰りたい気分じゃなかったんだ。
え……。
せっかく付き合えることになったんだから、少しでも一緒にいたいって思っちゃってさ。
相っ変わらず直球だ……。
ちょっとぐらい恥ずかしがりなさいよ!
べ……、弁慶は?
家にいるよ。
よく……、あいつが帰ったわね。
今は弁慶みたいに振る舞ってるけど、元々普通の女の子なんだよ。
普通?
いつもはもうちょっと女の子なんだ……。
キサマは……。
口を慎め。
も、どうかと思うけど……、
ありがとうございます。
お姉さま。
アレ、普通か?
たぶん……。
そうなんじゃないか?
ゴスロリだよ?
似合ってるし。
あれで学校行ってるんだよね?
うん。
家でもアレなの?
うん。
おかしいなって、
思わなかったわけ?
いつもああだから、そんなにヘンだって思わないんだよね。
それに、可愛いだろ?
やっぱりいまだに
兄バカか……。
義経は身内に対する愛情がハンパなかった……。
でも、静香といると、弁慶色が強くなるって言うか……。
弁慶色?
殿!
って、言ってた気がするんだけど……。
いつもアレって感じがするんだよね。
まあいいか……。
送らなくていいの?
ぱっと見は弱そうな女の子だし。
あの弁慶に限って、危険な目っていうのには遭わないと思うけど……。
外見に騙されるのはいるかもしれない。
だから家まで一緒に帰って、部屋に入った振りして抜けてきた。
え?
じゃないと、ついてきちゃうからさ。
往復してきたの?
嫌な予感がしてきた。
どこに住んでるんだ?
近いから、ウチ。
あーはい、そうなんだ……。
どうして今まで気付かなかったんだ?
そんなに近くにいたんなら、運命の人を見つけるセンサーみたいなの、働いてもいいんじゃないのか?
まあ、私は超能力者じゃないし。
霊感みたいなものもないもの。
ごく普通の一般的なJKなんだからね。
…………。
…………。
…………。
…………。
何しに来たの?
特に考えてこなかった。
そういうヤツよね……。
す……座れば?
うん。
経次郎は私の部屋を見回して、床に座った。
そこに座る?
あ、ボクの部屋畳だから、床に座っちゃうクセがあるんだよね。
ダメだった?
いい、そこで……。
床に座る習慣はないけど、床がダメってことになったら、後はベッドってことになる……。
さすがにそれは……。
出会って一週間だし!
ていうか、なんでそれで部屋に来てるのよ……。
聡士なんて、4カ月付き合ってても、手も握ってないんだからね。
あれは、付き合ってたって、ことにしてもいいのか?
まあ、いいか。
飲み物、いる?
場が持たない……。
うん。
何が良い?
なんでもいいよ。
それ、一番困るから……!
水じゃさすがにアレだし、今の時期は麦茶みたいなの作ってないし、ジュースは飲む習慣ないし……。
野菜ジュースか?!
それならあるはず……。
でも、待てよ?
もし、パパが台所にいたら……。
なんて言い訳すればいい?
ウソ吐くの
苦手だし……。
父なら簡単にごまかせそうな気がするけど、それはそれでちょっと……。
ママがいても、
それはそれで面倒くさそうな……。
ドアの前で固まっていると、
やっぱりいいよ。
静香ともっと話していたいし。
え?
いいご家族だよね。
静香のご両親。
……………………。
うん。
よかった。
経次郎は、嬉しそうにそう言った。