闇に落ちた後、現実へとすぐに戻った撫子は、ポチの背中から頭上高くで言葉を交わす二人を仰ぎ見た。
姿だけで言えば、災厄を起こしているラヴェルノの方が大きく恐ろしいのに、この状況は一体……。
――この波動は!!
我が種族の恥さらしめが……!! 世界を揺るがす程の災厄を生む事は、ラヴェルノの掟に反すると知れ!!
ラヴァスティア!! 何故ラヴェルノ七大長老の一人がここに!!
な、七大長老……。え、偉い、人、なんですかね。この子。
闇に落ちた後、現実へとすぐに戻った撫子は、ポチの背中から頭上高くで言葉を交わす二人を仰ぎ見た。
姿だけで言えば、災厄を起こしているラヴェルノの方が大きく恐ろしいのに、この状況は一体……。
うっ……、撫子。
あ、お師匠様!! 大丈夫ですか? あれ?
撫子の腕の中で目覚めたフェインリーヴの姿に奇妙な違和感を覚えた。
さっきまで辛そうにしていたその顔にはもう、なんの疲労の気配もなく、彼はひょいっと身体を起こしたのだ。
嘘だろ? つい今の今まで、凄い疲弊状態だったのに、体力値も魔力値も、全部もとに……。
それに、あれは……。ラヴェルノの長老が一人。ラヴァスティアではないか。
何でここに……。
私と、契約を結んだからです。あの恐ろしい化け物を倒す為に、力を貸してくれると。
撫子からの答えに、全員がぴきりと固まってしまう。
いやいや!! わかってる!? ラヴェルノとの契約には、代償が必要なんだよ!! 撫子君!!
命と魂には手をつけないって、そう言ってくれました!! それに、今は方法なんて選んでいられる余裕がないんです!!
この思い切りの良さ……、あぁ、やっぱり桃音の血族だな。結果はあとからどうとでもついてくる! ってとこがそっくり。
ですが、これで形勢は逆転したようですね。
目に見えて怯えている、大魔王姿のラヴェルノ。
それに対し、見かけは小柄な少年でしかないラヴェルノの長老、ラヴァスティアは余裕に満ち溢れている。
貴様は、我がラヴェルノの掟と誇りを穢しただけでなく、全ての世界に迷惑をかけた。今ここで、消滅という形で、その責をとるが良い。
うぉぉぉぉぉっ!! ラヴェルノは、我らは、どの種族よりも神の恩恵が強い!! それを世界に知らしめる事の何が悪い!! 我が手で、契約者の望みを、私の望みを……!!
神の名の許に……。我は契約者の望みに従いて、貴様を討ち果たす。――撫子!! そして、現・魔王よ!!
頭上から降ってきた声に返事を返せば、ラヴァスティアは撫子の許まで一瞬で転移し、その手をとった。そして、動けるようになったフェインリーヴに、剣を授けよ、と、そう迫る。
剣だと? そんなもの、今ここには……。
ある。魔族が生み出す、自身の命の一部を形へと変えた存在。時は満ちている……。汝が心から想う相手へのそれが、今、ここに。
俺が、心から、想う……、熱っ!!
フェインリーヴの片耳にあった涙型の石が、強い熱を抱き、彼の目の前に飛んだ。
撫子とフェインリーヴの間に浮いたそれが、徐々に形を変えながら、――やがて眩い光の中で一振りの剣となった。
これは……。
剣……?
私が出来るのは力を貸す事のみ。その剣を、我が契約者である乙女、撫子と共に構えよ。私達ラヴェルノが、全力でそなた達の後押しをしよう。
陛下、先代魔王陛下の苦しみを長引かせない為にも、どうかよろしくお願いいたします。
正直、ラヴェルノとの契約で撫子君が無茶なものを要求されないかと不安だが、――魔物達の妨害は俺達に任せろ。
頑張れよ、お嬢ちゃん、兄貴……。親父を、救ってやってくれ。
仲間達の強い眼差しに頷き、撫子は剣の柄に手をかけた。フェインリーヴが撫子を支え、その手に温もりを重ねる。
ブラウディムが生んだ、それを引き継いだラヴェルノの、大きな災厄。今ここで……、終わらせよう。
行け!!
神の御名の許に!!
お師匠様!!
あぁっ!!
くるな……、
来るなああっ!!
忌まわしきラヴェルノ、いや、災厄の権化よ!! 塵と消え失せよ!!
グァアアアアアアアッ!!
――……。