『ヒールが折れて、池に落ちた事にしよう』
家に帰ろうにも、家の場所すら分からないケットに対し、シンがそのように提案し、二人は合意した。
血塗れのドレスはシンの家で一度、洗われる事になり、それが体良く池に落ちた演出になると言うのだ。
本人の知らない家へと帰しても良いのか。小さくシンはそんな事を呟いていたが、何れにしてもあのままシンの家で暮らす訳にも行かない。
ケットが乗り移った身体は年端も行かない子供と云う程幼くはなかったが、かといって熟した成年かと言われればそうでもない、大人と子供の間を彷徨うような、うら若き乙女の身体だった。
猫の時の自分が人間の年齢として、どの程度成熟していたのかは、『過ぎ往く年を数える』と云う風習の無いケットの家からは分かる事も無かった。しかし、感覚的には同じ位の歳のようにも思えた。
しんしんと降り頻る雨の道を、ケットとシンは歩く。敢えて使用人を置いて来たのは、シンなりの気遣いなのかどうか。
ふわりと、ケットの背中に何かが掛けられた。