港に戻ると、サラサラ陸運の陸走船は
荷物の積み込みを終了していた。

すでに旅客の乗船が開始されている。


僕たちは船着き場に停泊している船に近寄り、
その巨大な船体を見上げる。

外見は海で航行している巨大帆船と
ほとんど変わらない。
 
 

トーヤ

うわぁ、大きな船だなぁ。
これが浮かぶなんてすごいなぁ。

カレン

そうね。使われている魔法玉も
大きくて精密なものでしょうね。

セーラ

トーヤくぅ~ん!
カレンちゃ~ん!

 
船を眺めていると、
乗り場の方からセーラさんが
手を振りながら駆け寄ってきた。

僕たちはその場で彼女と合流する。
 
 

セーラ

市場の散策は
楽しかったですかぁ?

カレン

はいっ!

トーヤ

僕はもう少し
見ていたかったですけど。
野菜とか果物とか。

セーラ

あれぇ? 2人とも
可愛いヘアピンを付けてますねぇ♪
カレンちゃんは当然としてぇ、
トーヤくんも似合ってますよぉ?

トーヤ

そ、そうですか……。
複雑な気分です……。

カレン

うふふっ♪

セーラ

ではではぁ、
船に乗りましょ~!
乗り場はこっちですぅ!

 
セーラさんに先導され、
僕たちは乗り場へ移動した。

するとそこで陸走船と普通の船の
大きな違いを目の当たりにする。



普通の船なら水に浮かんでいて、
ステップを使って上甲板へ乗り降りする。

でも陸走船は
船底が砂に少し沈んでいる程度なので
船腹に設けられた扉から出入りをするのだ。

確かに甲板まで高さがあるし、
扉が密閉されていなくても
浸水して沈没ってことはないもんね。



――扉の前では何人かの係員さんが
手分けして検札をおこなっていた。

僕たちはそこへ歩いていく。
 
 

係員さん

旅客の方ですね?
こちらで乗船券をご提示ください。

セーラ

すみませ~ん。クロードさんを
呼んでいただきたいんですけどぉ。
私はセーラと申しますぅ。

係員さん

少々お待ちください。

 
係員さんは船の中へ入っていった。


それからしばらくして、
係員さんはクロードさんと一緒に
扉の前へやってくる。

クロードさんは僕たちの姿を見て
ニッコリ微笑んだ。
 
 

クロード

皆様、お待ちしておりました。
こちらへどうぞ。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
こうして僕たちは船の中へ案内された。

周りを見回してみると、
たくさんの木箱が積み重ねて置いてある。
付けられているタグによると、
野菜や果物、穀物、生活用品など様々だ。


木箱のエリアを抜けると今度は
木材や石材、金属といった
素材が置かれているエリアとなる。


さらにその先には大きな搬入口があり、
すぐ横には巨大な樽が置いてあった。
その最上部では船員さんがホースを持ち、
樽の中に水を汲んでいる。

ホースは外のオアシスまで繋がっているようだ。
 
 

トーヤ

ねぇ、あれを見てよ。

カレン

どうしたの、トーヤ?

トーヤ

樽にオアシスの水を汲んでる。
僕たちの滴りの石があるのに
何でなんだろう?

カレン

そう言われてみれば、そうよね。

クロード

ふふ、トーヤ様。
いいところにお気づきですね。

 
クロードさんは先頭を歩きながら
顔だけを僕の方に向けて言った。
 
 

クロード

滴りの石にアクシデントが
起きないとも限りません。
ですから最低限の量は
念のために積んでいるのですよ。

セーラ

なるほどぉ、
保険みたいなものですねぇ。

クロード

はい、その通りです。
リスクを軽減する措置です。

クロード

まぁ、それでも水が
足りなくなった時は、
奥の手を使いますけどね。

トーヤ

奥の手?

クロード

いずれにしても、
二重三重に手は打ってありますので
ご安心ください。

 
爽やかな笑みを浮かべているクロードさん。
結局、奥の手については教えてくれなかった。

企業秘密ってやつなのかな?
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
その後、僕たちは階段を上って
船室のあるエリアを進んでいった。


こちらは一般旅客用の場所ではなくて、
船員さんや船舶会社の社員さん用に
割り当てられた場所みたい。

だってさっき通ったドアに
『関係者以外立ち入り禁止』って札が
掛けられていたから。
お客さんらしき人の姿もないしね。



やがてクロードさんは、
とある船室の前で立ち止まって
その部屋のドアを開ける。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 

クロード

こちらが皆様専用の船室です。

カレン

えっ? 個室ですか?
カーペット敷きの広い空間に、
ほかのお客さんたちと
一緒に乗るのかと思ってたのに。

クロード

皆様は乗合のお客さまではなく、
弊社の関係者という扱いで
お乗りいただいていますので。

トーヤ

あ、なるほど……。

クロード

何かこざいましたら
私にお申し付けください。
マイルより皆様のお世話を
仰せつかっております。

トーヤ

よろしくお願いします。
クロードさんっ!

クロード

っ!?

クロード

恐縮です、トーヤ様っ♪
お気軽に何なりと
おっしゃってくださいっ!

 
クロードさんはペコリと頭を下げると、
上目遣いで僕の顔を見つめていた。

頬を赤らめて少し照れくさそうにしている。
 
 

セーラ

ではではぁ、荷物を置いたら
甲板に行きましょ~♪
そろそろ出航ですからぁ。

クロード

船室のキーをお渡ししておきます。
ですが、物騒な世の中ですので
貴重品は必ずお持ちになって
お出かけください。

カレン

はいっ!

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
クロードさんから船室のキーを受け取ると、
僕たちは甲板に出た。

そして船縁の横から港の方へ視線を向けてみる。


甲板は思った以上に地上からの高さがあって、
港へ見送りに来ている人の姿が小さく見えた。
町も一望できて眺めがいい。


これで風が砂っぽくなかったら
最高なんだけどなぁ。

相変わらずの強い日差しといい、
やっぱりここは砂漠なんだなぁと
思い知らされる。
 
 

トーヤ

いよいよ出航だねっ!

カレン

あとはサンドパークまで
この船に乗っていればいいのね。

トーヤ

ギーマ老師はサンドパークへ
行ってみろって言っていたけど、
何があるんだろうね?

カレン

分からないけど、
今は唯一の手がかりだから
行ってみるしかないわよ。

トーヤ

そうだね。

カレン

まずはラジーさんから紹介された
シンディさんのところへ
行ってみましょう。

セーラ

確かラジーさんの医師としての
お師匠さんなんですよねぇ?
だとすると、
何かカギを握ってるかもですねぇ。

カレン

ありえますね。

 
 
 
 
 
 
 

 
ジャーン、ジャーン!
 

 
 
 
 
 
港にドラの音が響いた。

それから程なく船は動き始め、
徐々に港を離れていく。


分かっていたこととはいえ、
陸の上を走っているのを実際に見ると
やっぱり不思議だなぁと思ってしまう。
 
 

カレン

港で手を振ってる人が
いっぱいいるわよっ!

セーラ

私たちも振りましょ~♪

トーヤ

うんっ!

 
僕たちは見送りの人や
港の職員さんたちに向かって大きく手を振った。

そして遠く離れていくポートゲートの町に
心の中でお別れの言葉を投げかけたのだった。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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