僕たちは市場へやってきた。
王都ほど規模は大きくないけど、
活気は同じくらいあるみたいだ。
特に高温で乾燥した地域で良く育つ
果物や野菜がたくさん並んでいるのが
僕にとってはすごく興味深い。
薬の材料として使えそうなものを
いくつか買っておこうかな……。
僕たちは市場へやってきた。
王都ほど規模は大きくないけど、
活気は同じくらいあるみたいだ。
特に高温で乾燥した地域で良く育つ
果物や野菜がたくさん並んでいるのが
僕にとってはすごく興味深い。
薬の材料として使えそうなものを
いくつか買っておこうかな……。
ねぇねぇ、トーヤ!
あっちのお店に行ってみよっ!
可愛い小物がたくさんあるしっ!
わわっ!
カレン、引っ張らないでよ。
僕はもう少し植物を見――
そんなの、あとあとっ!
もう、しょうがないなぁ……。
はしゃぐカレンに圧倒され、
僕は小物屋さんへ
強引に連れていかれてしまった。
こういう時のカレンのパワーは凄まじい。
僕じゃ太刀打ちできないもん……。
いらっしゃい。
ゆっくり見ていってね。
小物屋さんには可愛らしいペンダントや
指輪、チョーカー、髪留めなど
女の子向けの商品が豊富に取り扱われていた。
中には宝石が付いたものや魔法道具もある。
店番をしているのは元気なお姉さんだ。
うわぁ、
どれも可愛らしいですねっ!
全部、私の手作りなんだっ♪
そうなんですかっ!?
器用ですねぇ!
で、おふたりさんは姉妹?
あまり似てないわね~!
え?
プッ!
ぼ、僕は男の子ですっ!
あ~、男の娘ね。
そうじゃありませんよっ!
普通の男子ですっ!
そうなの? だとしたら、
キミたちは恋人同士かっ!
っ!?
お店のお姉さんはケタケタ笑いながら
とんでもないことを言った。
そしてテーブルの上に肘を突いて
温か~い目で僕たちの方を見ている。
――ぼ、僕とカレンが恋人同士だなんて、
なんでそういう結果に行き着くのっ!?
確かに仲はいいけど
あくまでも友達としてであって、
そういう間柄じゃないのに……。
違いますよっ!
僕たちは仕事上のパートナーで、
別に恋人同士ってわけじゃないですっ!
…………。
ん?
お姉さんは首を傾げながら
僕とカレンの顔を交互に眺めていた。
それから少しして、納得したように手を打つ。
あ~、なるほどね~っ!
そういうことかっ♪
少年、あまりお嬢ちゃんを
悲しませちゃダメよ?
そのうち、手の届かないところへ
行っちゃうかもしれないよ~?
へ?
しっかり捕まえておきなさい。
これはお姉さんからの忠告っ♪
は、はぁ……?
とりあえず返事はしたけど、
なんかよく分からない忠告だなぁ。
さっぱり意味が分からないし、
何をどうしろっていうんだろう?
もしかして、市場は人が多くて
迷子になっちゃう可能性があるから
しっかり手を繋いでおけってことなのかな?
――うん、きっとそういうことなんだろうな。
まっ、暇だから
好きなだけ見ていって。
もし買ってくれるなら
特別にサービスもしちゃうし。
……ありがとうございます。
その後、僕たちは陳列されている商品を
順番に眺めていった。
そしてしばらくたったころ、
カレンは子猫がデザインされたヘアピンに
目が留まる。
その子猫はデフォルメされていて
可愛らしいけど、
ちょっと子どもっぽいような気もする。
これ、可愛いなぁ。
気に入ったの?
うんっ!
じゃ、付けてあげる。
じっとしてて。
えっ?
僕はそのヘアピンを手に取り、
カレンの前髪に付けてあげることにした。
左手でカレンの頭を軽く押さえ、
右手に持ったヘアピンを
ゆっくりと差し込んでいく。
なんかカレンの髪って
すごく艶々していてサラサラだ。
手触りがすごく気持ちいい。
…………。
――と、これでいいかな?
僕は一歩下がってカレンの姿を眺めた。
実際に付けて見てみると、
そんなに子どもっぽくもない。
むしろすごく似合っていて可愛い。
うん、よく似合ってるよ。
ホント?
お姉さん、
このヘアピンは僕が買います。
ほぅっ!?
トーヤっ?
いつもお世話になってる御礼に
プレゼントするよ。
……嬉しい。
毎度ありっ!
じゃ、少年にはサービスで
子犬のヘアピンをあげちゃおうっ!
はい?
別に男子が付けてもいいじゃん。
お嬢さん、
少年に付けてあげなさいよ。
分かりましたっ!
ちょっ!?
ほらっ! 暴れないのっ!
僕はカレンに両肩を掴まれ、
思いっきり叩かれてしまった。
どうせ抵抗しても
カレンは僕にヘアピンを付けるまで
諦めないだろうなと悟り、
大人しくされるがままになる。
…………。
あっ……。
目の前にカレンの顔があった。
こんなに近くで見るのは初めてかもしれない。
――いつもよりすごく可愛く見える。
呼吸の音が聞こえそうな距離。
ほんのりと漂ってくる石けんの匂い。
指が僕の髪や肌に触れる柔らかな感触――。
心臓の鼓動が速くなって
今にも爆発しちゃいそうだ……。
顔も風邪で熱が出たみたいに熱い!
なんでこんな気持ちになるのっ?
はいっ、できたっ!
トーヤ、似合ってるわよっ!
えっ?
気がつくと、
僕の前髪にはヘアピンが付けられていた。
カレンとお姉さんは僕の方を見て微笑んでいる。
顔、真っ赤になっちゃって♪
そんなに照れくさいの?
あ……えっと……。
似合ってるんだから、
そのまま付けてなさいよ。
う……うん……。
結局、僕はヘアピンを付けたまま
代金をお姉さんに支払ってお店をあとにした。
気がついてみれば、もうすぐ出航の時間。
すぐに港へ向かわなければならない。
はうぅ、
野菜や果物を見ている余裕は、もはやなし……。
トーヤ、ヘアピンを
買ってくれてアリガトね。
あ……うん……。
っ? どうしたの?
さっきからボーッとしちゃって。
熱中症にでもなった?
えっ? ううんっ!
大丈夫だよっ!
このヘアピン、大切にするね。
カレンは自分の前髪に付いているヘアピンを
愛おしそうに撫でた。
よっぽど嬉しいんだろうな。
その顔を見ていると僕まで嬉しくなってくる。
プレゼントして良かったなっ♪
植物を見る時間はなくなっちゃったけど、
なぜか僕の心は満たされている気がする。
不思議な感じだ……。
――さぁ、いよいよサンドパークに向けて
陸走船が出航だっ!
次回へ続く!