無感情に零れ落ちた音を、冷たいクリスタルの床に膝を着いていた男が視線だけで拾い上げる。
現・魔王……、フェインリーヴ。
弱き者を救いたいと、力による支配を極力避けようとする先代の息子。
生まれつき強大な力を抱いておきながら、理想論ばかりを語る、……哀れな魔王。
彼(か)の王がこのまま魔界を統治していれば、いずれ他種族からの侵略を受け、この地は滅びる事になるだろう。
そう、……先代魔王に忠誠を誓い続ける者達は考えている。
それを主張するように、度々時を見計らって現魔王に反旗を翻す者が多いのも事実だが、男が仕えている主はそんな事など、どうでも良いと考えているようだ。気だるげに吐き出された主の吐息と、自分達の頭上に浮いている……、『鍵』。
主にとって大事な事は、その『鍵』をこれから自分の望みとして、上手く利用する事だけだ。
『餌』として放置してある者達がどうなろうと、何の支障もない。