有希

んもう、
いきなりいなくならないでくださいよぉ

!!!

なん……だと……

エレベーターを降りた僕ら(というか圭)は、
百均よりも先に、トイレへ行こうとコース取りをした。

しかし、そのために使う道には……

有希

まずは話をゆっくりお話を聞いてくださいっ

どうして……そこにいるんですか

有希

お話がしたくてっ
日浦さんと

ただならない威圧感。

……未来に憧れる音楽少女だと思っていたら、とんでもない人だった……

いくよ

ああ

今回は同意。
話し合いをするにも、
まずはお互いに落ち着かなければ……。

僕の手首を握る圭の力はかなり強くなり、
早歩きから駆け足へ。

今まで圭に告白をしたどの女の子とも、
確かに違う雰囲気は感じるけど……。
というか……怖いっ!

有希

ああ、待ってくださいよぉ

有希

……

階段を降り、二階のサイクルショップに入った。

軽く息を整えつつ、
視線を周りに散らす圭に質問。

なぁ圭

なに

いつも徹底して無視してるのに、なんで今日はこんな逃げるんだ?

僕が恐怖を感じるのは当然にしても、
圭は……慣れてるってわけでもないのか。

意図が読めないから

意図?

どういう意味だろう。
春野さんが僕らを追いかけている理由なんて、
圭のことが好きだから。それだけじゃないか。

あいつはまだ、一度も俺と目を合わせてない

ふぅん……

照れてるだけじゃないんだろうか。
それとも、多くの女性に迫られたことのある圭だからこそわかる、不安に思うことがあるんだろうか。

有希

自転車ですか?
いいですねっ

!!

気がつけば、
隣でロードレーサーを眺め、
僕の隣にいた春野さん。
圭はあきれ顔を浮かべ睨み付けるも、
移動する意思はないようだ。

……

春野さん、

有希

なんでしょう?

その、告白はまた今度にしませんか?
いきなり過ぎて何がなんだかといった状態でして……

有希

それには及びませんっ

……はい?

威圧するわけでもなく、
脅すわけでもなく、
ただただ明るく言葉を発する春野さん。

というか、なんで圭への告白なのに僕が仲介してるんだ……。

有希

日浦さんにお返事をいただければそれでいいんです。

とのことだ、圭

……

圭?

何が目的?

春野さんへ、声を低くスパッと問う圭。
問われた側は相も変わらずニコニコと。

有希

日浦さんに一目惚れしてし

そういうの、いいから

有希

……

……??

全くもってわけがわからない。
ついていけない。
なんなんだこの状況。

春野さんも、ただ好きならきちんと告白して終わりにしればいいだろうし、
圭は圭で、最後まで聞いて断ればいいだけだろう。

さっきまで一応、メインで会話してたんだけどな……。

有希

えっと、やっぱりお二人は付き合っているんですか??

そんなことことはありませんッ!

有希

なら矢橋さんに止められる権利はないはずですっ
どうして逃げるんですかっ?

……。
やばい……謎が謎を呼びすぎて吐きそうだ。

ぁ……

っと、小さく零した圭は、ポリポリと頭を掻き、
力を抜いて、春野さんに言った。

俺が日浦圭
こっちが矢橋快

有希

えええぇぇぇぇ!!

…………

沈黙。
流石、CDを作ろうという気概があるだけはある。
とんでもなく大きな声量で驚愕の声を上げた。

有希

わ、私、なんてこと……

? 圭、説明をしてくれ……

うん

俺達帰るけど、いい?

有希

はい……すみません

もう手は離されているものの、
出口に向かって歩き出した圭についていく僕。
もう買い物をしたくないといった意思表示だろう。

有希

何してるんだろう……私……

ボソッと背中にぶつかるその声は、
ひどく悲しげに聞こえた。

ショッピングモールを出て歩く僕ら。
いろいろと聞きたいことがあったけど、
どうにも聞きづらかった。

しばらく無言だった圭が、突然、口を開く。

ごめん快、一応ここで言っておく

車がせわしなく流れる道路。
ゆっくりと歩き続ける圭。
後を追いかける僕。

俺は、

その言葉を聞いたとき、

女性が嫌いなわけでも
男が好きなわけでもない

世界がスローもションになって、
やがて止まったような、気がした。

快のことが、好きだよ

…………

そして僕は、
停止した世界と一緒になって足を止め、
決して口にしてはならない言葉を、
言ってしまう。

僕も、友達の中では一番信用してるよ

…………

僕の足は動かないのに、
圭の足取りは軽く、前へ前へ進む。

そっか

いつの間にか圭が
視界から消えて
僕の心に黒い染みが広がる。

気付いていなかったわけじゃない。
もしかしたらという気持ちはもちろんあった。

だけど、どうしていきなり。
なぜ、今。

やたらとゆっくり動く車。
排気ガスの匂い。
責めるように優しい暖かさ。

なにかが変化した瞬間の――
全てが、
嫌というくらいに心に刻まれた。

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