マイルさんが副社長を務めている
サラサラ陸運の船に
乗せてもらえることになった。

目の前には契約書を落札したマイルさんと
秘書のクロードさんが
代金を持ってやってきている。
 
 

セーラ

では、マイルさん。
これが契約書ですぅ。

マイル

うむ、確かに受け取った。

セーラ

それとこれは私からの
プレゼントですぅ。

 
 
セーラさんは腰に差していたナイフを
マイルさんに手渡した。



――あのナイフは何なんだろう?

最初、マイルさんも
訝しげな顔をしていたけど、
少し眺めたあとで感嘆の声を上げる。
 
 

マイル

これはいい品物だね。
セーラさんが作ったものかい?

セーラ

『祓いのナイフ』といいますぅ。
解毒の魔法玉が付いているので、
サソリやヘビの毒に冒された時に
役に立つと思いますぅ。

マイル

ほぅ、それは助かる。
ありがたく受け取っておこう。

セーラ

いえいえ、落札していただいた
御礼ですよぉ。

マイル

では代金を支払おう。
――クロード!

クロード

はい。

 
クロードさんはマイルさんの合図を受け、
手に持っていた鞄を開けて
中を僕たちの方に見せた。

そこには金貨がぎっしりと詰まっている。
 
 

トーヤ

ぼ、僕、こんな大金を見るの
初めてだよ……。

カレン

(ゴクリ)

セーラ

トーヤくん、カレンちゃん。
相談があるんですけどぉ?

トーヤ

っ? 何ですか?

セーラ

これだけの大金を持って
旅をするのは
大変だと思うのですぅ。

カレン

確かに重いですし、
強奪をしようとするやつに
襲われるかもしれないですしね。

トーヤ

宝石にでも交換しておきますか?

マイル

その方がいいなら、
同額分の宝石を用意するが?

マイル

あるいは換金証書を発行するかい?
それがあれば各ギルドで
現金に引き替えが出来る。
多少の手数料は取られるけどね。

セーラ

いえ、そういうことでは
ないのですぅ。

セーラ

とりあえず1万ルバーあれば
持ち金と合わせてしばらくは
旅が出来ると思うのですぅ。

カレン

そうですね。

セーラ

だから残りの24万ルバーは
寄付をしたいと思うのですぅ。

トーヤ

寄付ですか?

セーラ

プレプレ村の皆さんは
汚染された井戸水のせいで
大変な暮らしをしているのですぅ。
その人たちに寄付したいのですぅ。

トーヤ

あっ! なるほどっ!

カレン

もしかしてセーラさん、
最初からそのつもりで……。

セーラ

まさかぁ。
今、思いついたんですよぉ。

 
セーラさんはニコニコと笑っていた。


――彼女はとぼけているけど、
きっと今の言葉は嘘だ。


プレプレ村の人たちに寄付をするために、
あんな法外な値を付けて
マイルさんと交渉したんだ。

そこまで考えていたなんて、すごいや……。
 
 

トーヤ

セーラさん、僕は大賛成ですっ!

カレン

私もっ!

セーラ

ふふっ、2人ならそう言ってくれると
信じていましたぁ。

セーラ

マイルさん、
今の話の通りなので、
24万ルバーはプレプレ村へ
寄付していただけますか?

マイル

ふむ、井戸水を飲んだ者が
謎の病にかかっているらしいな。
死者も出ているという……。

トーヤ

ご存じだったんですか?

マイル

商人だからね、
各地の色々な話が耳に入ってくる。

セーラ

情報は商売における
重要な武器なのですぅ。

トーヤ

そうなんですかぁ。

マイル

分かった、
キミたちの希望通りにしよう。
クロード、頼んだぞ。

クロード

かしこまりました。
そのように手配をしておきます。

マイル

それにしても、僕はますます
セーラさんを気に入ったよ。
そして寄付の話に即座に同意した
トーヤくんとカレンさんもね。

トーヤ

そんな……。

 
なんか面と向かってそういうことを言われると、
すごく照れくさい。

でも悪い気はしないなっ♪
 
 

マイル

では、出航時間に船でまた会おう。
くれぐれも遅れないでくれよ?

カレン

マイルさんも
船にお乗りになるんですか?

マイル

もちろんさ。
サンドパークで大きな取引をする
予定があるからね。

 
マイルさんは僕たちに向かってウインクをすると、
クロードさんと一緒にギルドを出ていった。


――すごく気持ちのいい人だなぁ。



こんなことを言ったら失礼だけど、
商人さんってもっとケチでずる賢くて
おカネに汚いのかと思ってた。
 
 
 
 
 
 
 
 

セーラ

さてさてぇ、
出航時間まで何をしましょうかぁ?

トーヤ

あと1時間くらいですね。

カレン

私っ、市場を見て回りたいです!

セーラ

この町に来てから
ゆっくり見て回る余裕が
なかったですものねぇ。

トーヤ

うん、行こっか!

セーラ

私はギルドでもう少し
商売をしたいですぅ。
市場には2人で行ってくださいぃ。

セーラ

船で合流しましょ~♪
それでいいですよねっ、
カレンちゃん?

カレン

っ!?

 
問いかけられたカレンは、なぜか息を呑んだ。

そして頬を赤くしながら、
落ち着きなく視線を揺らしている。



……どうしたんだろう?

もしかしてトイレにでも行きたいのかな?
でもそんなことを聞いたら、
全力で平手打ちをされそうだ。



こういう時は黙っていてあげるのが
優しさだよね?
 
 

カレン

……はい、ありがとうございます。
セーラさん。

セーラ

うふふふっ!
がんばってねぇ!

 
セーラさんはなぜかニヤニヤしながら
ギルドの奥へ歩いていった。

一方、カレンはますます頬が赤くなっている。



もしかして我慢の限界なのかな?

でもそれにしては、
嬉しそうにしている気もするんだよなぁ。
 
 
 
 
 
 
 
 

…………。

 
 
 
 
 

トーヤ

ん?

 
僕は誰かの視線を感じて辺りを見回した。
でもそれらしい気配はすでに消えている。


気のせい……だったのかな……?
 
 

カレン

どうしたの?

トーヤ

ううん、なんでもない。

トーヤ

じゃ、僕は上の酒場で待ってるね。

カレン

えっ? なんで?

トーヤ

だって……その……
用事があるんじゃない?

カレン

そんなのないわよっ!
さっさと市場へ行きましょっ♪

 
 

 
 

トーヤ

わっ!?

カレン

うふふっ!

 
 
カレンは僕の腕に抱きついて強引に引っ張った。
いつもより少しテンションが高めで、
すごくご機嫌な様子だ。


突然のことに僕は戸惑いつつも、
すぐに足を動かして
一緒に歩いていったのだった。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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