クロウ

う、うーん・・・
あれ?
僕いつの間に寝ちゃって…?

窓からさす光に顔をしかめる

ずいぶんと明るい・・・あの後そのまま寝てしまったようだ

日差しがさす窓へと近づく

昨日のことを思い出す、僕にも魔法が使えた

この事実が僕にこれほど影響を与えるとは思わなかった

いままでの僕を思い出す、なんだろう・・・今の僕と今までの僕が違うのは心の持ち方だろうか

大分気分に余裕が持てたように思える

僕は鳥かご(ラックさんに借りた)へと向かう

中ではすやすやとヤアタが眠っている

しばらく起きる様子はないな・・・

クロウ

・・・おはよう、ヤアタ

起こさないように声をかける

相変わらず眠ったままだ

そんなヤアタに僕は頬が緩む

しばらくヤアタの顔を眺めていると

ラック

おや、目覚めましたか
体調に変化はありませんか?

クロウ

はい、大丈夫です
あ、あの・・・昨日はすみません
うれしくって・・・

ラック

無理もありませんよ、初めての魔法なんですから
どうやら平気なようですね
さぁ、食事としましょう

そういってラックさんはテーブルのほうへ料理を二人前持っていく

テーブルにお互いが向き合うようについてから食べ始める

不意にラックさんが声をかけてきた

ラック

さて、ラック
昨日あなたは魔法を覚えました
ですが魔法には詠唱と魔法名が必要です
昨日は陣による発動でしたので発動しましたがこれからはあなたが自分で発動しなくてはいけません
あなたの魔法です、あなたが魔法名と詠唱を決めてください

クロウ

え・・・?
僕が詠唱と魔法名を決めるんですか?
そうだなぁ・・・

どうやら僕は割と重大な役割を任されたらしい

詠唱と魔法名・・・ファイアランスやヒール

知っているものはいくつかあるけどそれとはまったく別のものを考えなくてはならないとなると・・・

頭をひねっている僕を見てラックさんは笑い

ラック

思ったことをそのまま詠唱にすればいいんですよ
イメージです、大切なのはなんだかんだ言ってイメージなんですよ

イメージか・・・

ふと気づいたことがある

今ヤアタと会話はできるんだろうか?

会話からすると今は魔法が切れているんだろう

クロウ

そういえば、今は発動していないんですよね?
この魔法がないとやっぱり会話はできませんよね?

ラック

そうですね、おそらく不可能でしょう

どうやらこれは早く決めたほうがよさそうだ

ヤアタやほかの魔物との会話をまたしたい僕は必死に考える

イメージが大切とラックさんは言っていた

・・・うーん、だめだ考えがまとまらない

気づけばラックさんはもう食事を終えたのか器はもう空だ

とりあえず、今はこの朝ご飯を食べよう

時間がたつのは早いものだ、今はもう昼過ぎ

いまだに魔法名、詠唱が決まらない

ヤアタも今はもう起きて僕の肩にちょこんと乗っている

首のあたりをなでてやると目を細めて気持ちよさそうにしている

難しい顔をしているのがばからしくなってくるようだ

クロウ

ヤアタ、どうしようか?
はぁーこんな時にまた君と話せたらなぁ・・・

ヤアタは僕の言葉に首をかしげているんだろうか?

・・・わかんないや

クロウ

まっててね、また話せるようになるから!

そう意気込み、また考え始める

僕は近くにある本に手を伸ばす

ラックさんにこの家にあるものは自由にしていいといわれているので問題はない

何かヒントはないだろうか

そんななか、一冊の本に目が留まる

本のタイトルは・・・読み込まれているんだろう
かすれて読めない

最後に勇者と書いてあるあたり辺りありきたりなおとぎ話のように見える

クロウ

なんかこれだけすっごく読み込まれてる・・・
ラックさんってこういうの読むんだなぁ

思わず気になり手に取る

どうやら予想通りおとぎ話のようだ

そこには簡単にこう書かれてある

-------太古の昔、世界には争いが耐えなかったという

魔物と人間とではなく

人間と人間の争い

国が出来ては滅び、出来ては滅びを繰り返す

そんな世界に神様は涙した

神様は自分の分身を鳥の形にして神の使いとして地上に落とした

道中神の使いである鳥は一人の人間と森で出会う

その人間は忌み子として人々から嫌われていた

その子は人間と鳥人のハーフでどちらの能力も中途半端であった

はじめは特に気にもしない神の使いであったが森で魔物の群れに襲われてしまう

神の使いとして地におろされたが神としての力は少なく、すぐに窮地に追い込まれる

これをなんと救ったのが忌み子の青年

神の使いは彼に協力を求め争いを止めようと世界中を駆け巡ることになる

争いが全て収まったわけではないが彼は命を賭して動いた

神の使いは平和の世のために

忌み子の青年は自分のようなものを後に出さないようにするために

結果として彼はひとつの国を作り出す

それがこの国 イチリンだ

だが神の使いはこれだけには満足できなかった

神の使いは完全なる平和のためには全ての人間を消せばいいという結論に至る

過程を見れば仕方がないだろう、人が人を殺す

女子供関係なくだ

はじめは寛容でいようという神の使いであったが次第に黒く染まっていく

忌み子の青年はこれを理解はしたが袂を分かつ

そして、一匹と一人はお互いの全てをぶつけ合った

勝ったのは忌み子の青年、負けたのは神の使い

純白であった羽は最早黒く染まっていた

青年は神の最後の言葉に耳を傾ける

私の行いは間違いであったのだろうか?
教えてくれ、教えてくれ忌まれし子よ
我と貴様は何が違った、私には分からない

青年は涙を流しこう答える

私とあなたは同じだ、何も変わらない
ただそこに犠牲を求めたか犠牲を求めなかったかだけが違うだけだ
私の大切な友よ最後は攻めて私の手で葬ろう

青年は神の使いに止めを刺す

後にイチリンでは彼を鴉羽の勇者と呼ぶようになる

いつも鳥を肩に乗せていたからだろう
純白の鳥の記憶は人々の記憶には残らず人々の記憶には黒い鳥が残った

そして、イチリンでは黒い鳥のことを不吉の象徴と呼ぶようになる

黒い鳥はその羽で人々を吹き飛ばせし、その爪で逃げ惑う人々を切り裂いた。

元は同じ目的を持っていたもの同士なのにもかかわらずここまで違ってしまった

鴉羽の勇者はいつまでもそのことを・・・神の使いの真実を伝えなかったと言う

ラック

それ、どうです?
なんだか今のあなたにそっくりかもしれませんね

クロウ

わ、わあ!

読みふけってしまっていたのだろう

僕は肩をたたかれるまで待ったクラックさんに気づかなかった

クロウ

びっくりしたあ・・・
でも、どうして僕にそっくりなんです?

ラック

神の使いかどうかはさておいて
あなたは黒い鳥を友に持っているし
言いたくはありませんがあまり良い生き方をしてこなかったでしょう?

なるほど、確かにそうだと僕は思う

そしてもう一つになった点がある

クロウ

そういえばこの物語、最後まで誰にも真実を伝えなかったって書いてるけど
何でこの本には書いてあるんですか?

ラック

ああ・・・その本人間の間には出回っていないんですよ
私の家が代々保管していましてね
それと書いてある理由ですが、確かに人間には教えませんでしたよ
書いてありませんがこの勇者には鳥人の友人がいたらしく、その人にだけは伝えたらしいです
勇者の死後その本を残しその鳥人も亡くなりましたが
この事を人間に知られるのはあまりよくないということで我々が保管しています

クロウ

なるほど・・・え?
我々?

ラック

私で何代目でしょう
もう正確の記録はありませんが
私はその鳥人の子孫なんですよ
だからその本を持っていると言うわけです
あ、まだ人間には黒い鳥は不吉の象徴とされていますよ
・・・さて、そろそろ無駄話は終わりにして
詠唱の方は決まりましたか?

・・・なんだか僕はとてもすごい話を聞いた気がする

でもなんだろう・・・すごくこの勇者の気持ちは分かる気がした

彼は犠牲を求めなかった

皆が生きる世界を求めた

でもそこに・・・その鳥はいたんだろうか?

クロウ

あ、はい
とりあえずは

ラック

では、外へ行きましょうか

そんなやり取りと共に僕とラックさんは外へと向かった

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