セーラさんはマイルさんの申し出を断るらしい。
せっかくのいい話なのに、なぜなのっ!?


――あっ! もしかしてっ!
 
 

トーヤ

セリにかければ、
10万ルバーより高く売れるかも
しれないからですか?

セーラ

ハズレですぅ。

カレン

トーヤ、セーラさんは落札金額が
1万ルバーくらいだと思ってたって
言ったばかりじゃない。

トーヤ

あ……そっか……。

マイル

セーラさん、
良かったら僕に売れない理由を
聞かせてもらえないかな?

トーヤ

僕にも教えてくださいっ!

カレン

私も知りたいです。
セーラさん、なぜなんですか?

 
僕たちが注目すると、
セーラさんは得意気な顔で小さく咳払いをした。
 
 

セーラ

商売には大胆さと同時に
冷静さも必要なのですぅ。

セーラ

マイルさんは本当に
サラサラ陸運の
副社長なんでしょうかぁ?

マイル

…………。

セーラ

マイルさん自身が言っているだけで
なんの裏付けもありませんよねぇ?

カレン

でも受付さんは
彼がギルドの理事だって――。

セーラ

彼女にそう言うように
仕込んでいた可能性がありますぅ。
もしかしたら詐欺グループの
仲間同士かもしれないですしぃ。

受付さん

し、失礼なっ!
私はギルドの人間ですし、
本当のことを言っただけですっ!

 
受付さんは額に青筋を立てていた。

一気にその場の空気が悪くなり、
僕たちまで居づらく感じてしまう。



――はうぅ、今のはセーラさんが悪いよぉ。

どう考えたって詐欺グループの一員だなんて
あるわけないもん。
ずっと受付にいるわけだし、
周りにはほかの職員さんだっているんだから。


ギルド全体が偽りだとしたら別だけど……。
 
 

トーヤ

セーラさん、
僕には仕込んでいたようには
見えないんですけど……。

セーラ

そういう可能性も
考えられるという極論ですぅ。

セーラ

私が言いたいのは、
何事も慎重に行くべきだ
ということですぅ。

トーヤ

っ!?

セーラ

船に乗るということは、
命を預けるのと同じですからねぇ。
つまり彼が信用できる人物かどうか
疑問に感じたのですぅ。

セーラ

信用の出来ない人物に
命は預けられませんし、
商売ならなおさら、
する気が起きませんよぉ。

カレン

マイルさんが信用できないと?

セーラ

その通りですぅ。
セリを無視して
抜け駆けをしようとする人なんて
信用できませんよぉ。

セーラ

買いたければ、
セリで10万ルバーの値を付ければ
いいだけのことですぅ。
その値なら落札は確実ですからぁ。

カレン

そっか!
そんな値を付ける人なんて
普通はいないですもんねっ!

トーヤ

さすがセーラさんっ!

 
 
 
 
 

マイル

ふ……ふふ……
あははははっ!

 
 
 
 
 
突然、マイルさんは
堰を切ったように笑い出した。
お腹を抱え、目には涙まで浮かべている。


……ま、まさかこのあと、豹変しないよね?



そこまで読まれては仕方がないっ!
――とか言って、
襲いかかってきたらどうしよう?

フォーチュンは接近戦には向かないし、
こういう狭い空間だと扱いづらい。


なんかそういうことを想像したら、
勝手に体が震えて来ちゃったよぉ……。



やがてマイルさんは笑いを必死に堪えつつ、
セーラさんへ視線を向ける。
 
 

マイル

名工セーラさん、
僕はあなたを気に入った!
久しぶりに一目置きたくなる
商人と出会ったよ!

セーラ

ありがとうこざいますぅ。
でもプライベートなお付き合いは
勘弁なのですぅ。
タイプではないのでぇ。

マイル

ふふふ、それは残念だ。

 
セーラさんとマイルさんは
軽いジョークを交わし合った。
雰囲気はいたって和やかだ。



どうやら僕の想像は杞憂に終わったらしい。
襲われなくて良かったぁ……。
 
 

セーラ

でも商売でのお付き合いなら
考えさせてもらってもいいですぅ。
その分、落札金額に上乗せを
してもらえればですれどぉ。

マイル

ほぉ?

セーラ

私の武器職人としての腕も
ご存じなのですよねぇ?
私とのコネを作りたいと
あなたなら考えていますよねぇ?

マイル

ふっ、参ったな……。
さすがだね、
ますます気に入ったよ。

マイル

事前に契約書を買うという話は
聞かなかったことにしてほしい。
その代わり、セリでは
20万ルバーで入札させてもらう。

トーヤ

えぇっ!?

カレン

20万ルバーっ!?

 
僕とカレンはその金額に目を丸くした。


頭の中が混乱している僕たちを尻目に、
セーラさんはニコニコしながら
さらに追い打ちをかけるようなことを口走る。
 
 

セーラ

30万ルバーでお願いするですぅ。
名工の武器を取り扱えるように
なるんですからぁ、
それくらいはいただかないとぉ。

トーヤ

っっっ!?

カレン

ちょっ!?

マイル

あっはっは! 本当に面白い人だ。
だが、30万ルバーは高すぎだな。
間を取って25万ルバーでどうかな?

セーラ

それで手を打ちましょ~!

マイル

では、会社に戻って追加の積み荷と
臨時旅客の受け入れについて
手配をしてくる。
またのちほど会おう。

 
そう言うと、マイルさんは事務所を出て行った。
セーラさんはその後ろ姿をにこやかに見送る。



――セーラさんにしてもマイルさんにしても、
第一線で活躍している商人さんってすごいなぁ。


剣と剣がぶつかり合うような派手さはないけど、
駆け引きとか先読みとか、
静かな中にも激しい攻防があるもんなぁ。

商売って面白い面もあるけど、
複雑すぎて僕にはやっていけない。



それを考えると、
薬草師は分かりやすくていいな。

手順さえ間違わなければ
思い通りの薬が作れるし、
その薬で病という敵を倒すことが出来る。

僕にはやっぱり薬草師の方が合っている。
 
 

セーラ

ではではぁ、
セリを楽しみに待ちましょう。

トーヤ

そうですね。

カレン

はいっ!

 
それから数時間後、契約書のセリが行われた。

当然、マイルさんの入札額はダントツで
他の追随を許さなかった。


額が大きすぎるからなのか、
値を吊り上げようとする人も出なかったしね。
もし落札してしまったらという恐怖があるから、
やりたくても出来なかったんだろうなぁ。



こうして僕たちはサンドパークへ向かう船へ
乗れることになったのだった。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第41幕 次元が違う商人たち

facebook twitter
pagetop