どうすんだよ……
どうすんだよ……
ヤツは追い出されるように、帰って行った。
あんな男と付き合うなんて赦さん!
塩が入っている蓋つきの調味料入れを握りしめ、玄関先で父は怒鳴った。
塩、まいたよ……。
悪魔払いの儀式か?
ヘタすると怨霊扱いされるヤツだし……。
神社とかで祭られてるって、そういうことだよね?
「祟らないでください。お怒りをお鎮めください」
ってことだよね?
追い出したら、祟られるんじゃね?
ボクは、世界のすべてを恨んだよ。
って、言ってたな。そういえば。
大丈夫かな?
パパ、こんなことして。
ヘラヘラしているくせに、意外と根に持つからな。
義経だった頃も、どうして平家と戦ってるのかって聞いたら、
あー、うん。
小さい頃、平家の人に嫌なことされたんだよね。
って、サクッと言って、サクっと滅ぼしてたな。
ウチに来ても追い返せ!
まきすぎじゃね?
パパ、お塩、
タダじゃないんだからね。
母はそう言って、調味料入れを取り上げる。
ほんっとにもう。
あいつには覇気というものがない。静香に言いきられて付き合うみたいな感じだったじゃないか。
お父様、それだと、私がものすごくヤツと付き合いたいって言ってるみたいじゃないですか?
付き合いたくない
わけじゃないけどさ……。
そうだな、もうちょっと強引に来てくれてもいいかな?
静香、キミが好きなんだ。
って、はっきり言ってくれるような?
そこまで言うならしょうがないし。
そういう感じよね。
そんなことないわよ。
経次郎くんは、ずっとずっと静香ちゃんへの想いを、隠し持っていたのよ。
小学生の時からなんだからね。
ママもね、はじめは嫌だなって思ったのよ。なんてはっきりしないウジウジしたガキなのよって。
そうなの?
あれは、ママが買い物から帰って来た時だったわ。
…………。
もう何日も来てて、「さすがにこれは……。」って思うようになってたの。
だって、晴れの日はもちろん、風の日も来てたし、
雨の日も……。
…………。
…………。
雪の日もいたのよ。
ここはちょっと可哀想だけど、はっきりと言わなきゃ。
「男ならどーんと当たって砕けなさい」って。
食事の時、かわいくて声をかけたって言ってなかった?
もちろんその気持ちもあったけど、こういう気持ちもあったのよ。
経次郎くんがいたんだから、そんなこと言えないでしょ?
ママ、意外とシビアだから……。
でも、静香ちゃんも悪いのよ。
なんで?
だって静香ちゃん、男の子に告白されても、すぐに断っちゃいそうな感じなんだもの。
小学生の頃なら断るわ。
そんなことになったら、あのピュアの塊な経次郎くん、ショックで寝込んじゃいそうでしょ?
ピュアの塊?
どこが?
話してみたら、経次郎くん、面白いし可愛いんだもの。これはぜひ、ウチの静香ちゃんの婿になってもらおうって思ったの♡
勝手に決めないでよ……。
駄目だ駄目だ!
婿になるってことは、一緒に住むってことなんだぞ!
俺の留守中に、ママとあいつが一緒にいるなんて、赦さん!!!
や~だ~
パパったら♡
そんなこと気にしてたの?
ママはパパ一筋だよ。
それ以外の人なんて、目に入らないよ♡
愛人にするって言ってなかった?
……あ、いや……、その……。
静香ちゃんが取られるって思ってたからじゃなかったの?
もちろん!
静香をあんなヤツにはやらん!!
きゃ~、ロミジュリ♡
ろ……ろみ?
……じゅりー?
とーきーおのか?
なんでアイドルグループ?
パパ、シェイクスピア、知らないの?
…………。
しょうがないな。
教えてあげるよ。
そう言って、ママは二人の部屋にパパを連れて行く。
クイッ
パパに気付かれないように、顔で「上に行け」という仕草をした。
え? 何?
2階には、私の部屋がある。
行くけど……。
自分の部屋だし……。
なんか疲れたかも……。
とにかく部屋に戻った。