なにかチクチクとした感覚が顔にある

僕は今おそらく倒れているのだろう

父様に言われたあの言葉

ザルバ

やはり貴様は出来損ないのようだ

思い出すと止まっていたであろう涙がまた溢れ出してきそうになる

でも同時に僕の中で一つの希望が芽生えてくる

外に出れた

確かに捨てられたのは悲しい・・・いや、悔しいといったほうがいいだろうか

まぁどちらでも構わない

結果として僕は今外にいる

眠いのとはまた違った瞼の重みを感じて目を開けるとそこには

・・・森だった

いや、嘘偽りなく森だった

あたり一面には緑が生い茂り背の高い木がたくさん生えている

どこの森かはさておいて、僕の今の手持ちを確認してみよう

ナイフ一本、終わりだ

強いて言うならばずっと着ている黒を基調としたパーカーくらいなものか

どうしたものかと悩んでいると

グルル・・・


鳴き声のようなものが聞こえる

まるで獲物を見つけた時の獣の唸り声のような

体を起こして周囲を確認する

・・・そこには

ウルフだ

よく森に生息している魔物

下級の魔物で本来は群れを成して行動しているはずのウルフが何故一匹で行動しているのかと思い刺激をしないように観察する

怪我だらけだ、何かにひっかかれたのかわからないがそのウルフにはたくさんの傷があった

おそらく群れから見放されたか縄張り争いで負けたか

本来なら僕には関係のないことだけど今はマズイ

何故なら僕の手にはナイフ一振り、これしかない状態でどうしろというのか

グルルルル・・・ギャン!

声をあげてこちらへ走ってくる

怪我のせいかわからないが少し遅いように見える

クロウ

ひっ!うわああああああ

悲鳴を上げて僕は手に持っていたナイフを眼前に持ってくる

ウルフはおそらく僕を餌として食べるつもりだろう

やっと出られたんだ!こんなところでは死ねない

ウルフがこちらへ飛び掛かってくる瞬間僕は時間が遅くなったかのような感覚に襲われる

ああ・・・死ぬのか、せっかく外に出れたというのに

これからたくさんやりたいことがあったのに

僕に属性があれば、無い物ねだりをしている場合ではないのがわかっているが眼前にある死の恐怖にせずにはいられない



牙が目の前に来る瞬間僕は恐怖に耐えきれず体を少し仰け反らせてしまった

それが功を成したのか僕はウルフの攻撃をよけるのに成功したらしい

少し手にウルフがぶつかり痺れが残るが死んでしまうよりは全然ましだ

慌てて手に持ったナイフを構えなおそうとする

・・・ない

クゥーーン・・・ッハッハ

キューー・・・キューー

ウルフの声にまた目をそちらへ向ける

そこにはウルフがいた

が、先ほどと違い様子がおかしい

苦しそうに体をひねり何とか呼吸をしようとしているように見える

どうしたんだろうか・・・警戒しながらも近づく

・・・ああ、そういうことか

ウルフの腹部には僕がさっきまで手に持っていたナイフがあった

先ほどぶつかったときに刺さったのだろう
肉を切るような感覚が全くなかったからどこかに落としたのかと思っていた

ぶつかったと同時に突き刺さりそのままの勢いで倒れこんだであろうウルフを見て僕はつぶやいた

クロウ

ごめん・・・ごめんね

つぶやきがウルフに聞こえたのかは僕にはわからないがウルフはもう動かなくなっていた

初めて命を奪った・・・それが僕に重くのしかかる

僕は近くのきに寄りかかり腹の中のものをぶちまけた

いや、ろくに食べていないから出すものもあまりないんだけど

目の前のウルフは必死に生きようとしていた

僕もそうだがお互いそうだったんだろう

僕はウルフの命を奪った

考えれば考えるほどに頭の中がぐるぐるする

クロウ

うう・・・うう・・・

またしても胃の中のものを吐き出してしまう

一通り吐き出した後急激な疲労感に襲われた

頭が痛い、疲れた、眠い

そんな感覚に陥った僕は、また意識を手放したのだった

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