僕らが話していると、
不意に若い商人さんが声をかけてきた。

受付さんは彼を見た途端、慌てて頭を下げる。


あんなに恐縮しているということは、
よっぽどの豪商さんなのかな?
 
 

マイル

滴りの石があるということは、
船に水を積まずにサンドパークまで
行けるということになる。
そこまでは理解しているかな?

トーヤ

はい。

マイル

船には最大積載量という
ものがある。
つまり船に載せられる重さに
限界があるということだ。

カレン

載せすぎると
沈んでしまいますからね。

マイル

その通り。一方、船旅で水は
必要不可欠なものなんだが
意外に重いし、かさばる。

マイル

つまりその分だけ
一度に運べる人や荷物が
減ってしまうということだ。

トーヤ

確かにそうですね。

マイル

例えば、1回の運行で
100ルバーの運賃がかかるとしよう。
荷物を5個運んだ時の運搬コストは
1個あたり20ルバーだ。

マイル

でももし10個運べれば、
1個あたりの運搬コストは?

 
商人さんはこちらへ視線を向けて言った。
つまり僕に答えろって
いうことなんだろうなぁ。

えっと、100ルバーを10個で割れば
いいわけだから……。
 
 

トーヤ

10ルバーですね?

マイル

その通り!
つまりそれだけ安く
売ることが出来る。

マイル

同じ品物であれば、
価格の安い方が多く売れるのは
当然だろう?

セーラ

そういうのを、
価格競争力が付くというのですぅ。

トーヤ

へぇ~!
商売って面白いですねっ!

カレン

だからセーラさんの契約書は
売れる可能性があるという
ことなんですね?

マイル

そうさ。積まない水の分、
人や荷物を積めば相当儲かる。
特にサンドパークまでだと
かなりの水量を積んでいるからね。

セーラ

なかなかデキる
商人さんのようですねぇ?

 
セーラさんはニコニコしながら
商人さんを見やった。

すると商人さんは優雅な仕草で会釈をする。
 
 

マイル

申し遅れたね。
僕はサラサラ陸運の
副社長を務めているマイルだ。

カレン

副社長っ!?

マイル

正確には最高執行責任者なんだが
キミたちには副社長って言った方が
理解しやすいだろう?

受付さん

マイル様は当ギルドの
理事もなさっております。

トーヤ

わわわっ!
そんなに偉い人だったのかっ!

トーヤ

え、えっと、
僕はトーヤと申しますっ!
薬草師をしていますっ!

カレン

あたしはカレン。
医師をしています。

セーラ

えとえとぉ、私はぁ――

マイル

名工セーラさんだろう?
すでに情報が入ってきているよ。

 
セーラさんが自己紹介をしようとしたのを遮り、
すかさずマイルさんが言い放った。


そうだよね、
ここのギルドの関係者なら情報が伝わっていても
おかしくないもんね。

僕たちがギルドに来てから時間が経っているし。
 
 

セーラ

ふーん、そうでしたかぁ。
なるほど、なるほどぉ。

マイル

その契約書、セリにかけず
僕に売ってくれないか?
10万ルバーでどうだろう?

トーヤ

えぇっ!?

 
さらっととんでもないことを言うマイルさん!

だってあんな紙切れを
10万ルバーという大金で買うだなんてっ!
言い間違いじゃないのっ!?


それとも僕の耳がおかしくなった?
……そうだ、聞き間違いかもしれない!



僕は恐る恐るマイルさんに確認をしてみる。
 
 

トーヤ

つ、つまり僕たちは
船に乗せてもらえる上に
10万ルバーを
受け取れるわけですか?

マイル

あぁ、その通りさ。

トーヤ

うわぁ~っ!
何も間違いじゃなかったっ!

カレン

それってすごい破格じゃないっ!

セーラ

確かに破格ですねぇ。
私は落札金額が
1万ルバーくらいだと
思っていましたからねぇ……。

マイル

ほぅ? なかなかの見立てだねっ♪

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

セーラ

……でもぉ、マイルさんには
売れないですねぇ。
セリにかけさせてもらうですぅ。

 
 
 
 
 

トーヤ

えぇ~っ!?

 
今度はセーラさんが
とんでもないことを言っちゃった!

せっかくのいい話なのに、断っちゃうのっ!?



セーラさぁん……
僕にはわけが分からないよぉ……。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第40幕 契約書が売れる理由

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