ザルバ

どうやら問題なく杖は使えそうだな

僕の父は僕のことをまるでその場にいないかのように会話を続ける

エリア

お父様!

きていらっしゃったのですね

ええ、見ての通りこの杖なら魔力をさらにうまく扱い、強い魔法を扱うことが出来ますわ!

おそらく、今日一番であろう笑顔を父に向けて見せる妹の姿に少し悲しくなる

僕にもうあの笑顔が向けられることはないのか・・・

わかっているだけに改めて考えるとなんともいえない気持ちになる。

クロウ

う・・・うう・・・

ここで何とかうめき声を上げながら僕が少し動く

少しでも父に声をかけてもらいたい

もしかしたら・・・もしかしたらだけど、優しい言葉をかけてもらえるかもしれない

そんな少しの期待を胸に

ザルバ

ああ、いたのか

お前、なぜまだここにいる?

試し撃ちは終わっただろう
早く牢へ戻れ

後で使用人に鍵をかけるように伝えておこう

これ以上お前のようなやつがここにいないでくれ

ああ・・・やっぱりか、

少しでも期待した僕が馬鹿だったみたいだ

涙を堪えながら僕は怪我をした体を引きずってまた牢へ向かって歩く

どうして、どうして僕はこんな風になっちゃったんだろうな・・・

昔はよかった、言葉は年寄り臭いかもしれないけどまさに言葉通りだ

いつもニコニコと笑い、兄様兄様と呼んで隣を歩いてくる妹

厳格で厳しいながらも時折やさしいところを見せてくれて、僕らの遊びにも付き合ってくれた父

笑顔で周りを癒してくれて、メイドの仕事を取って私が家事をするのよといって料理を作ってくれたりした母

どこで、どこでこんなに狂ってしまったんだろう

地下牢の入り口に着くと一人の女性が心配そうにこちらを見ていた。

母様だ

レイラ

大丈夫?クロウ!

ああ、またあの娘ったらこんな

酷い・・・なんてことを

僕のことを見るやすぐにこちらへ駆け出してくる

この女性はレイラ・レーデン

僕の母で平民出身

母だけは僕に対して道具としてでなく

息子として接してくれた

レイラ

今すぐに回復魔法をかけるわね・・・

その者を慈愛をもって癒せ、セイントヒール!

母の詠唱が終わると母の手から白い光が現れ、僕の傷口に近づける

あったかい、心地よい温かみを感じて痛みにゆがんでいた顔を和らげる

見ると傷口は完全に消えており、元の何の異常もない肌に戻っていた

クロウ

ありがとう母様

・・・ごめんね?迷惑をかけて

もう大丈夫

僕は今作れる精一杯の笑顔を持って母に顔を向ける

母はいつもこうやって傷ついた僕を回復魔法で癒してくれる

中級光魔法 セイントヒール

さっき母様が使った魔法だ

母様は光属性の魔法、その中でも回復魔法に関しては右に出るものはいない・・・と僕は思っている

そして妹はご想像の通り炎属性、ある意味ぴったりなのかもしれない

レイラ

本当?

痛いところはもうない?

何かあればすぐに言うのよ

それと、ほら!今日の食事よ

母様はバスケットを取り出して中身を見せてくれた

パンだ、僕は一応毎日パンは屋敷の使用人からパンをもらっている・・・少ないけど

それで食いつないでいるがやはり少ない

母様はそれがわかっているのかこうしてよく食べさせてくれる

流石に父様の目があるので毎日とは行かないけど

僕にとってはうれしい一時だ

クロウ

うん、おいしい!!

このパンおいしいよ、わ!
中に卵が挟んでる!

正直な話僕はパンよりも母としゃべれるこの時間がうれしい

僕のことをゴミではなく、クロウ・レーデンとしてみてくれる人物だからだ

レイラ

そう?良かった、たくさん食べてね

こんな母様の何気ない言葉が僕にとっては一つ一つ大切だ

パンをすべて食べきった後母様はそろそろ行かなければと屋敷へ戻っていった

おそらく父様がここへ来ることをあまりよくは思っていないのだろう

僕は地下牢へ戻ることにした

地下牢へ戻り、寝転がり改めて考えてみる

何時までこんな生活が続くんだろうか

こんな風に虐げられて大好きだった父様やエリアにいやな顔をされて生きていくんだろうか

実際この3年間の間はつらいものだった

エリアの魔法の実験台にされたり
父からの心無い発言
使用人たちからの露骨な無視

味方なんて母くらいなものだ

絶対にこのまま死ぬなんていやだ

ここで死ぬくらいなら、僕はもっと外の世界を知りたい

外でギルドや学園

友達

いろいろと行きたいし作りたいものもある

クロウ

外に、出たいな・・・

僕の望みに答える人は誰もいなかった。

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