順風満帆程つまらない物はない。
 ましてやそれが己の力でなく手に入れたものならば尚更の事。本来ある達成感すらなく、故に優越感すらなく、ただその状況を許容するのは大概の人間が知らないだろうが、酷く苦痛だった。

 神城一族。

 神城製紙を源流とした元財閥にして日本国内で二位を誇る統合企業体(コングロマリット)の元締め。

 その名に付きまとう金と権威は、さながら制限のない魔法のような成功を約束する。特に日本での影響力に限って述べるのならば、第一位と比較しても決して遜色がない。

神城 鋭

下らねえなあ

 優性学、という学問がある。

 生物の遺伝子を人の意志によって改良し、特別優秀な子孫を残す。嘗てナチス・ドイツで行われた人種政策が有名だが、それは人間の品種改良とも呼べた。

 神城は日本最強の『特殊(スペシャル)』だ。
 古来より膨れ上がった金と権威は図らずとも神城の血を精錬した。

 本来の定義で生まれつき特殊な能力を持つ者を『天然(ナチュラル)』、後天的に得たものを『特殊(スペシャル)』と呼ぶが、神城のそれは人の域を超えていない。
 数十代という長い年月を掛けて後天的に得た『特殊(スペシャル)』は要するに人としての『限界値』とも呼べる。

 遺伝子に刻まれた約束された成功と勝利。
 そして、それに『漏れた』神城を取り囲む、それでも優秀な傍流一族。

 始まりは偶然でも、ある意味必然的に取捨選択されて来た。
 いつか人が進化した生き物が現れるというのならばそれは恐らく神城の直系から現れる事になるだろう。

神城 鋭

何故こんな事もできないんだ?

神城 鋭

違うな。何でこんな事を僕はできるのか、だ

 発達した神経中枢、思考系と神経系。筋肉、あるいは半ばオカルト地味た『魂』と呼ばれる存在に至るまで。
 摩耗にも似た動きの鈍い感情と、何となくで見通す直感。

 周りに存在する人間たちが自分とは異なる存在だと実感してしまったのは『生まれてすぐ』の事だ。

 もしも、テレビゲームのように人にレベルと言うものが設定されているのならば、僕と彼等ではレベルの桁が違っているのだろう。

 改良(カスタム)された人間とただの人間ならば前者が勝つのは当然の話。

神城 鋭

許す。元々期待なんてしてないからね。
まぁ、次のチャンスなんてないけど

なっ!?

 いつしか、歴代最強の神城と呼ばれていた。

 それもまた、当然の話。改良された遺伝子、引き継がれてきた血。
 携帯とかゲーム機などではないのだ。機能の大きな変化ではなく純粋なスペックアップで改良されてきた後継機の僕が、何故従来機である父・祖父に負けようか。

 魔王と呼ぶ者がいた。

 かろうじてまだ『人間』をはみ出していないが、なるほど、なかなか洒落た言い方ではある。
 僕と彼等の身体を精密検査し比較すれば、偶然では済まされない程の『性能差』が発覚する事だろう。一般人では、環境差異や努力・学習などでは覆せない根源的な差異が。
 いや、それはもう神城の下部組織で研究されている紛れも無い事実だった。

 だから、彼等は僕に負けても仕方ない。

 そして、僕は彼等に勝って当然なのだ。

 常に低いモチベーションだったが、そんなの関係ない。低いモチベーションでも負けるわけがないのだから。

神城 鋭

へー、そうなんだ。よかったね

 人の心がわからない、と罵られた事があった。理屈ではない、感情でわかっていない、と。

 だが、それもまた仕方がない事だ。僕はその言葉を諦観で受け止めた。
 僕に彼等の感情はわからない。何故ならば、生物としての格が違うのだから。

 否、そういう意味で僕はまだマシな方だろう。何しろ、彼我の間にちょっとばかり耐え難い程度の差しか感じ取っていないのだから。
 そして、僕は確信している。
 何代後かは知らないが、神城の子孫はいずれ他の人間を淘汰するだろう。それは自然淘汰とでも言うべき極当たり前の事象。

 人間には自らと余りにも異なっている存在を忌避する性質がある。きっと僕の子孫は彼我の余りにも巨大な差異に耐え切れない。
 そして、自らと余りにも異なる隣人たちとの間に共感能力を持たない僕の子孫はそれを成すのに躊躇う事はない。

ちょっと、ちょっとちょっと!

神城 鋭

ん? どうしたの?

笹宮 冥

待ってください、待ってくださーい!

 冥がいきなり僕の話を止めた。
 時刻は既に十時近い。笹宮さんは勉強部屋に篭ったままで、冥の両親が帰ってくる気配は未だなかった。

 帰りが遅いというのは本当らしい。

神城 鋭

どうしたの?

笹宮 冥

わ、私……お姉ちゃんと知り合った契機を聞いたんですが……

笹宮 冥

何でファンタジックな話になってるんですか。しかも最後、若干SF的なの入ってるし

神城 鋭

やれやれ、ファンタジックな話なんて想像力に乏しい僕ができるわけがないじゃないか

 神城が辿った進化の形は有り体に言えば論理的な思考と肉体的な性能改善に偏っている。それは結果的に妄想力の減退を引き起こしていた。僕が面白い事を言えないのもそのせいだ。
 きっと神城の子孫は人外じみた精密駆動と圧倒的な破壊力を持つ機械のような存在になるだろう。

神城 鋭

まぁ、確かにS(すこし)F(不思議)ではあるかもしれないね

笹宮 冥

S(すごく)F(ふしぎ)ですね、どちらかと言うと。しかもお姉ちゃん全然関係ないし

神城 鋭

いや、もうちょっと伏線張ってから話そうかと……

笹宮 冥

何の伏線ですか……。
大体、話すにしてもどうせするならもうちょっと愉快な話にしてくださいよ……

 冥も笹宮さんの妹らしく、ストーリーについてはうるさいのか……これは想定外だった。
 仕方ない、これから面白くなっていく所だったんだけど、話を変えよう。

神城 鋭

じゃあ次はとっておきの下ネタを披露しよう

笹宮 冥

何で下ネタ……。
いいからお姉ちゃんとの馴れ初めを教えてほしいんですけど……

第二十一話:少し不思議な話

facebook twitter
pagetop