それから、1時間近くがたつ。
 
あたしは怜一郎さんの隣で、彼の寝顔をずっと眺めていた。
 
あたしは、バカだった。
怜一郎さんは、あたしのために頑張ってくれていた。
 
なのにあたしは、そんなことにも気づかずに、ひとりで寂しがって、あたしに飽きたんじゃないかとか、怜一郎さんを疑うようなことばかり考えていた。

あん

ごめんね…

そっと怜一郎さんの前髪を避けてあげる。

そのあたしの手に、怜一郎さんがそっと頬をすり寄せてくる。
 
…かわいい。
 
あたしは、自分の胸がなにかあったかいもので満たされていくのを感じていた。

あん

怜一郎さん…

早く、起きないかな…?
 
あたしは、いてもたってもいられず、そっと身を乗り出す。
 
昔見たあの物語のように…
 
あたしは、怜一郎さんの唇にそっと自らのそれを寄せた。
 
それから、静かに怜一郎さんの顔をうかがう。
 
やはりというか、怜一郎さんに目覚める気配はなかった。
 
…そりゃそうだよね…
 
あたしが、そっと下を向いたその時。

怜一郎

あん…?

声がした。

あたしは、ばっと勢いよく顔を上げる。
怜一郎さんが、かすかに目を開き、こちらを見ていた。

怜一郎

俺…

あん

怜一郎さんっ

あたしは思わず、ベッドの上の怜一郎さんに抱きついた。

怜一郎さんは一瞬戸惑ったようだったが、すぐに抱きしめ返してくれた。

怜一郎

…どうした?

そっと、訊いてくる怜一郎さん。

あん

佐倉さんから、聞いた。
…怜一郎さん、あたしのために無理してたんでしょ?

耳もとで、自嘲的な笑い声が聞こえた。

怜一郎

…なにあいつ、話しちゃったの?

「恥ずいなー」という呟き声。そんな声にさえ安心する。

それで、怜一郎さんにこんなにも会いたかったんだと、あたしは改めて気づいた。

怜一郎

ごめんな、心配掛けて…

そっと体を話し、目を合わせて言ってきた。

あん

ほんとだよ、もう、あたし…

言い返した途端に、それまでこらえていた涙がぽろりとこぼれた。

怜一郎

泣くな…

優しい声に、涙を止めようとすればするほど次々とこぼれてくる。

怜一郎さんは少し慌てたようにあたしの涙をぬぐってくれていたのだが、逆効果と気づいたのかもう一度抱きしめてきた。

怜一郎

あん。…明日、どっか出掛けよう。

そっと、囁くような声がした。
 
今まであんなに悩んでいたのがバカみたいだ。
 
怜一郎さんは、こんなにもあたしを大切にしてくれている。
 
あたしは、そんな怜一郎さんのことが…

あん

うん…

うなずくと、さっきよりも強く抱きしめられた。
 
そっと背中をさする大きな手。
…すごく心地いい。
 
あたしは、そのまま怜一郎さんに身を任せ続けた。

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