滴りの石を売らずに船に乗れるって
セーラさんは言うんだけど、
どうするつもりなんだろう?
……ま、まさか密航じゃないよね?
滴りの石を売らずに船に乗れるって
セーラさんは言うんだけど、
どうするつもりなんだろう?
……ま、まさか密航じゃないよね?
っ!? あ、ありえるっ!
その考えに行き着いた途端、
背筋が寒くなった。
だってセーラさんだったら言いかねないもん。
もし密航がバレたら暴力を振るわれて
奴隷のような強制労働、
あるいはお役人に突き出されて牢屋行き……。
――いや、それならまだマシかも。
砂漠の真ん中で
放り出されてしまうかもしれない。
僕は恐る恐るセーラさんに聞いてみる。
あ、あの、セーラさん?
はいぃ?
み、密航する気じゃないですよね?
あっ! その手もありましたねぇ。
密航にしますかぁ?
手っ取り早いですしぃ。
いやいやいやいやっ!
しないですって!
今の言葉は忘れてくださいぃっ!
そうですかぁ?
なぜか残念がるセーラさん。
色々と鋭いし頼りになるのに、
少しズレたところがあるのが危なっかしい……。
まぁ、密航じゃないと分かって安心したけど。
どうするつもりなんですか?
セリで『あるもの』を
売るのですぅ。
私にお任せくださいぃっ!
自信満々で言い切るセーラさん。
きっと大丈夫だよね?
――そのあと、僕とカレンは
セーラさんの後ろについていった。
向かった先はギルドの事務所。
セリの受付はここでおこなうらしい。
事務所内にはギルドで働く人のほか、
様々な手続きなどで訪れている
商人さんの姿も多数見られて賑やかだった。
セリに出品するには申込書と手数料を納め、
出品する品物の確認をして受付完了となる。
セーラさんは事務所内の机で申込書と
何かの書類を作成し、
それらをカウンターへ持っていった。
すみませ~ん。
はい、どんなご用ですか?
セリに品物を
出品したいんですけどぉ。
セーラさんはカウンターの上に
申込書と手数料を置いた。
受付さんはそれを手にとってザッと眺めていく。
えっと、書類と手数料は
揃っているようですね。
それで、品物は何でしょうか?
はい、これですぅ。
セーラさんは先ほど書いていた何かの書類を
受付さんに見せた。
契約書……かな……?
セーラさん、これは何なんですか?
契約書みたいですよね?
その通りですぅ。
『私たちをサンドパークまで
無料で陸走船に乗せる権利』
を得る契約書ですぅ。
はぁっ?
な、何ですか、それ?
ですからぁ、
この契約書を持っている人は
私たちを陸走船に乗せることが
できるのですぅっ!
これなら運賃がかからず、
サンドパークへ行けますぅ~♪
…………。
…………。
僕とカレンは唖然としてしまった。
出品する品物が契約書というのも
予想外だったけど、
その内容まで無茶苦茶だったから。
だって運賃を取るどころか、
無料で僕たちを乗せる権利だなんて
買い手には何のメリットもないのに……。
誰が買うんですか?
この契約書……。
受付さん、セリに出品しても
問題ないですよねぇ?
え、えぇ、まぁ……。
セーラさん、
こんなの手数料の無駄ですよ……。
ちっちっち!
セーラさんは人差し指を立て、左右に振った。
なんかいつも以上に得意気だ。
ということは、
やっぱりこれには何か裏があるのかな?
契約書をよく見てほしいのですぅ。
そこには付属する権利が
いくつか書いてありますぅ。
……あ、ホントだ。
細かい文字で
色々と書いてありますね。
生き馬の目を抜かなければ
やっていけないのが
商売の世界ですぅ。
一流の商人が契約書の内容を見たら
絶対に飛びついて来ますぅ。
しかもその商機に気付かない
二流以下の商人を
ふるい落とすこともできて
一石二鳥なのですよぉ!
未だに意味が
分からないんですけど……。
契約書の文章を
よく読んでみてくださいぃ。
私たちが滴りの石を持っていて、
それを使っていない時は
使用する権利も付けていますぅ。
なるほど、そういうことでしたか。
受付さんはポンと手を打ち。
納得したように何度も頷いた。
つまりセーラさんの意図を理解したのだろう。
つまり水が好きなだけ
飲めるということですか?
カレンちゃん風に言うなら、
その答えは50点ですねぇ。
あうぅ……。
――つまり、船に水を積む必要が
なくなるってわけさ。
突然、僕たちの横から
若い商人さんが話しかけてきた。
――この人は誰なんだろう?
次回へ続く!