車の止まる音がして、あたしが玄関へ向かうと、すぐさまドアが開いた。
だがそこに現れた人物は、怜一郎さんではなく、思いもよらない人物だった。
おかえりなさーい
車の止まる音がして、あたしが玄関へ向かうと、すぐさまドアが開いた。
だがそこに現れた人物は、怜一郎さんではなく、思いもよらない人物だった。
結人(ゆいと)さんっ?
すらりと背の高い、着物の青年。
ふわりと柔らかそうな茶色の髪と、色気のあるたれ目のこの人には、見覚えがある。
一色結人(いっしきゆいと)。
怜一郎さんのお祖父さまが会長を務める九条グループの傘下にある呉服、洋服屋の社長令息で、自らもデザイナーとして働いているすごい人だ。
怜一郎さんとは又従兄弟の関係にあたり、以前怜一郎さんを言い負かしているところを見たことがある。
久しぶりー、あんちゃん
結人さんはにっこりと笑った。
あの、まだ怜一郎さんは戻ってないんですけど…
普通に家の中に上がってくる結人さんにあたしは慌ててそれを告げる。
すると。
知ってるよ?
けろりとした言い方に、あたしは不安になった。
…え、いいんですか…?
うん、大丈夫
結人さんはあたしの方を振り向いて、手を伸ばしてくる。
わずかに冷たい手が頬に触れて、あたしは思わずびくりとなった。
…あんちゃんに、会いに来たんだ
じっとこちらを見つめてくる力強い瞳に、思わず引き込まれそうになる。
あたしがそうして目をそらせないでいると、ぷっと結人さんは吹き出した。
…なっ…
かわいーね、あんちゃん
ぽん、と頭をなでられる。
服をね、作りたいと思ったんだ
…服、ですか
なんだ、と肩の力を抜く。
うん、とうなずきながら結人さんは廊下の奥のドアを開けた。
中はリビングである。
近くのソファに腰かけて、結人さんは続けた。
あんちゃんの服、また作りたいって思っちゃったんだよねー
…それは、どういう意味だろう?
あたしが、小さく首を傾げたその時。
車の音がした。
…怜一郎じゃない?
どこか挑発的な笑み。
…ちょっと失礼します
あたしは、反射的に部屋から飛び出していた。
だから、そのあと結人さんが呟いた言葉を知らない。
…愛されてるなー…