あん

…天体観測部?

転入から1週間。

いつものように一日の授業が終わり、迎えを呼ぼうとしていたところ、ありすちゃんに呼び止められた。

クラスの異常なまでの女子の少なさと、席が近くであることも手伝って、あたし達は本格的に親友になっていた。
 

ありすちゃんは、今日もいつものように完璧な美少女である。明るい色の巻き髪、ぱっちりおめめのメイク。

鉄壁の紫外線対策のたまものである肌は真っ白で、新色だというピンクのグロスがよく映えていた。

背は標準より低いけど、痩せているからスタイルも良く見える。


…ぶっちゃけ、そんな彼女の口から出た“天体観測部”という言葉ほど、似合わないものはない。

ありす

そうそう。天体観測部!

聞くと、ありすちゃんが部長を務める部活らしい。

そういえばなにか部活に入っているって言ってたけど、いつも早めに帰っていたし、忘れていた。


料理部とか、裁縫部とか、そういう女子っぽいものならまだしも…

あん

…すっごい意外

あたしが思わず思ったことを正直に呟いてしまうと、ありすちゃんに眉をしかめられてしまった。

ありす

どういう意味ぃ?

美少女はそんな表情もかわいい。

あん

ごめんって

…どうしようかな。
 

理数科にしかできない活動がしたいと思い、理数科に編入したものの、季節は3月。来月には3年生だ。

清黎学園は初等科から大学までのエスカレーターだから、受験もないし大丈夫なのかなと思っていたのに、課題研究はできないと先生に言われてしまった。


ちょうど今は、それで落ち込んでいたところだ。
たしかに、そういう風な部活に入りたいと思っていた。
 

――けど…

あん

ごめん、やっぱ無理かも

星とか、きれいだとは思うけど、そこまで興味ないし。

あんまり詳しくもないし、そんな人が入るのはなんか失礼じゃないかな?
 

そう思ったのだが。

ありす

そんなこと気にしなくていいよぉ

あたしが思ったことを口に出して言うと、ありすちゃんは慌ててそう言ってきた。

ありす

他のみんなもぜんぜん星とか興味無いの!

…ん?
どういうこと?
 

あたしが不思議そうな顔をすると、ありすちゃんは言いにくそうに下を向いた。

ありす

ほんとは…、なかなかメンバーが集まらなくて、人数合わせなの

聞くと、天体観測部はありすちゃんが作った部活らしい。

清黎は学校敷地内に小さいながら天文台があるような学校だが、それは完全に授業用で、天体観測部はなかった。

それ以外は課題研究とか、あるいは物理部の人が、たまに使うくらいだという。

もともと天体に興味を持つ人が少ないのかもしれない。


それでありすちゃんは知り合いにかけ合って人数合わせに入ってもらったのだが、つい最近そのひとりが辞め、廃部の危機に…!

あん

そういうことなら、いいよ

そう言うと、ありすちゃんはそのかわいい顔に満面の笑みを浮かべた。


…女のあたしでも、思わず胸わしづかみだ。

ありす

ほとんど活動してないけど、まとまったお休みの日は観測するからね!

…ぉ、おう。


ありすちゃんのテンションに、あたしは思わず引き気味になる。
 

…まぁ、楽しそうだけど…

ありす

泊まりでね、知り合いのコテージ行くのー

…やっぱりだ。
予想通りの言葉に、軽く眩暈を感じる。


お金持ってこわいなぁー
知り合いがコテージを持っていらっしゃるんですね。


それに…


お泊りって、怜一郎(れいいちろう)さん許してくれるかなー
 

あたしはその時のことを思って、思わずため息をついた。

4.「小さな変化」(1)

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