怜一郎

もう寝るのか?

そう尋ねられ、あたしはうん、と頷いた。

今日はいつもより少し早い。
12時をまわった頃だ。

あたしが布団に入るのを見ると、怜一郎さんもパソコンの電源を落とし、こちらへ近づいてきた。
 
一緒に横になる怜一郎さんを見つめながら、あたしは思い切って言ってみた。

あん

あたしにあわせなくてもいいんだよ?

怜一郎

ん?

怜一郎さんもこちらを向いて、あたしに視線を合わせてくれる。
なんて優しい目なんだろう、とあたしは思った。

あん

あたし、知ってるの。怜一郎さん、夜中に起きて仕事してるんでしょ?

一瞬、目が逸らされた。しかしすぐに、怜一郎さんは微笑む。

怜一郎

大丈夫だ

怜一郎さんは大きくてあったかい手で、あたしの髪を撫でる。
あたしはそれが気持ちよくて、その手の動きに身を任せた。

怜一郎

おまえはなにも心配するな

あん

でも……

やがてそのうち、そっと抱き寄せられる。
怜一郎さんのぬくもりに、心が落ち着く。
あたしは目を閉じた。

怜一郎

俺が、こうしていたいだけなんだ…

怜一郎さんの心臓の音、ちょっと早い…?
あたしと、おんなじ速さだ。

怜一郎

好きだ、あん…

あたしは、怜一郎さんの腕の中微笑んだ。
――あぁ、その言葉が真実ならいいのに…

あんが寝付いたのを確認すると、そっと起き上ってベッドから降りた。

そのままデスクに向かおうとして、立ち止った。
ベッドに戻り、あんの寝顔を盗み見る。

そっと横髪を払いのけて。
白くてなめらかなその頬に、触れてみたり。


不埒な思いが抑えられなくなって、俺は眠るあんの唇を奪った。

短い、ついばむようなくちづけは、やがて深いものにかわっていく。


我に返ったのは、苦しそうなあんの息遣いが聞こえたから。

はっとして体を離す。
どうやら起こしてはいないようだ。


ひとまずセーフだが、自分的には結構アウトだ。


最近、こんなことばかりに思う。
今までずっと我慢してきたのに、近頃は、自分の欲望を抑えきれない。


“こうしていたいだけ”なんて嘘だ。
そんなんじゃもう足りない。
もっと、あんに触れたい。もっとあんを知りたい。


でもこれは、きっと俺の勝手な欲望。
俺の身勝手は、いつかあんを傷つける。


そうなるくらいなら、いっそ――


あんの髪を払いのけて、その白い額にくちづけた。

怜一郎

愛してる

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