あん

怜一郎さん!!

怜一郎さんが帰ってきたのは、夜も9時をまわる頃。

あたしは車の音を聞いた瞬間玄関まで走って怜一郎さんを迎えた。

怜一郎

ただいま、あん

性懲りもなく抱きしめようとしてくる腕を払いのけて、あたしは怜一郎さんの手を取った。

あん

ちょっと話があるの!

そしてそのまま奥の方へ走る。

人のいない部屋を探して連れ込むと、自分の服のボタンを解いてった。

怜一郎

お、おい、どうしたっ?…続きなら寝室で

あん

ばかじゃないの!?あたしの話ってこれ!!

そのままばっと襟を開いて、首にあるものを示した。

それを見た途端、怜一郎さんはつまらなさそうな顔をした。

怜一郎

…あぁ、それのこと

なんでもないことのように呟く声に腹が立つ。

あん

な、なんでこんなきっ、き、き、…キスマークなんて!!

怜一郎

俺のだっていう証拠?

あん

そんなのいらない!!

今朝のことを思い出すと、本当に恥ずかしくてたまらない。

…あたしがあんなに恥ずかしい思いをしたのに、なんでこの人は…っ

あん

あたし、新多くんにも、ありすちゃんにもこれ見られたんだから…っ

怜一郎

新多?なんで新多がおまえのシャツの下なんか見てるんだよ。…まさか…

 見当はずれなやきもちはやめてほしい。こっちの身が持たないから。

あん

それは朝怜一郎さんが、あたしのシャツ開けたまま車から追い出したからじゃない!

怜一郎

あー。…で、ありすって誰?

あん

新しい友達!

怜一郎

ふーん

興味無さそうな相槌を打って、怜一郎さんはあたしの胸元に手を伸ばした。
見ると、ボタンを開けている。

あん

ちょ、ちょっと…っ

下着まで見えてきて、あたしは慌てた。

あん

なにしてんのっ?

怜一郎

一緒に風呂入ろっか

あん

はあぁっ?

人のいない部屋だと思っていたそこは、脱衣所だったようだ。どうりであついと…。

それにしても、こんなところにもお風呂があったとは…知らなかった。

怜一郎さんは、あたしをそっと抱きしめた。

怜一郎

おまえがそんな格好するから。…我慢の限界。

服の下から手が滑りこんできて…、もう終わりだと思ったその瞬間。

あん

ばか!

あたしは精一杯の力で怜一郎さんの体を押し返す。
それから慌てて走って部屋を出た。

あん

ひとりで入って!

部屋の外からそう叫ぶと、またあの笑い声が聞こえる。


本当に、楽しそうに笑うんだから。子供みたいに。

あん

あー、もう、腹立つ!

あたしの悪態は、逆効果だったようで。
怜一郎さんの笑い声は一層大きくなり、しばらく続いていた。

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