あん

零川あんです。よろしくお願いします

自己紹介した途端、ざわめきが広がった。

それはそうだ。理事長の婚約者がクラスメートなんだから。
…まあ、本当は婚約者どころか妻なんですけど。
 
これは、すんなり受け入れられそうにないなー。
 

そう思いながら教室を見わたしたあたしは、凍りついた。

あん

…ぅそ…

女の子の割合が極端に少なかったのだ。

少人数でみっちり教育を。がモットーらしく、あたしを含めクラスメートは31人。


そしてその中の女の子は…4人。
12.5%!!!…あ、意外と多かった。じゃなくて。
 

しかもみんなまじめそー。話し合うかな。
 

そう思い見回していると、ひとりの女の子と目が合う。
明るい巻き髪の、理数科のイメージと違う子だ。

しかも結構かわいい。

葉月先生

じゃあ、零川さんは三森(みつもり)の横の席な。

ありす

はいはーい、あったしー

三森と呼ばれた女の子は、あの巻き髪の女の子だった。
手を大きく上げて、手招きしてくれる。

あたしは少し急ぎ足で、机に向かった。

あん

えっと…三森、さん?

ありす

ありすって呼んで、あんちゃん

あん

…ありすちゃん

顔にぴったりのかわいい名前だ。

…一瞬どうなることかと思ったけど、この子とは友達になれそう。

ありす

ねぇねぇ、あんちゃんって理事長の婚約者って本当?

来た。…直球だな。
 

前の方では葉月先生がまだSHRをしていて、ありすちゃんは小さな声で尋ねてきた。

あたしも同じくらい小さな声で返す。

あん

うん、本当…

ありす

きゃー。じゃぁその指輪って、婚約指輪っ?

美少女の目ぢから恐るべし。

まつげばしばしのぱっちりおめめに訊かれたら、思わず答えてしまった。

あん

う、うん…

ありす

きゃぁー

葉月先生

三森、うるさいぞー

とうとう葉月先生に注意されてしまったが、ありすちゃんは全然言うことを聞く気配はない。

いつものことなのか、葉月先生も無視してSHRを続けた。

ありす

あんちゃんってかわいいよねー

あん

へっ?

急に変なことを言われたせいか、声が裏返ってしまった。

あん

なに言ってんの、ありすちゃんの方がお人形さんみたいでかわいいじゃん

ありす

ありすは全然だよー。これメイクだし。あんちゃんは、ほぼすっぴんでしょ?

あん

…ま、まあそうだけど…

 でも美少女に言われてもうれしくないなー。

ありす

髪もさらさらだし…って、そのピアスかわいー

あたしの髪を触っていたありすちゃんが、ピンクダイヤのピアスに目をとめる。

怜一郎さんからのプレゼントである、あのピアスだ。

ありす

プレゼント?

あん

…う、うん

顔に出ていたのだろうか。あっさり見破られてしまった。

ありす

へー。趣味いいんだね、理事長って――、…っ!!

急に途切れた言葉を不審に思ってありすちゃんの方を見ると、あたしの首のあたりを見たまま固まっている。

そういえば新多くんもそんな反応していたなと思いつつあたしは首をかしげた。

あん

…ねぇ、なにか変?

ありす

…ぇ、ぁ、ぃや、変ってゆーか…

さっきの新多くんとおんなじだ。目をきょろきょろさせている。

あん

ありすちゃん?

ありす

あんちゃん、ちょっと来て!

そう言って、ありすちゃんはあたしの手をひいて立ちあがる。


まだSHR中だ。

止める葉月先生を無視してありすちゃんが連れてきたのは女子トイレだった。これまたきれいで大きなトイレだったけど――、

ありす

見て

そう言ってありすちゃんはあたしを鏡の前に立たせた。

ありす

ここのところ

あたしのリボンを取って、シャツを開け、より見やすくする。


指さされたところにあるものを見つけて――、あたしは恥ずかしさのあまり死にたくなった。

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