あたしがとられたリボンを手にぼーっと歩いていると、うしろから元気な声が聞こえてきた。
振り向くと、眉上前髪の、かわいらしい少年がいた。
…そう、九重新多だ。
おっはよー、あんさん!
あたしがとられたリボンを手にぼーっと歩いていると、うしろから元気な声が聞こえてきた。
振り向くと、眉上前髪の、かわいらしい少年がいた。
…そう、九重新多だ。
おは…、あっ
シャツのこと忘れてた。
と、慌ててシャツのボタンを閉めようとしたあたしは、リボンを落としてしまう。
もーおっちょこちょいだなー
そういいながら拾い上げてくれた新多くんの視線が、あたしの首もとに釘づけられた。
その視線を追って首を押さえて、あたしは首をかしげる。
なに?なんか変?
…ぇ、あ、いや…
なんだかすごく困っているようだ。
何度もちらちらと目を泳がせては、口をぱくぱくしている。
…なんってゆーかー、…ぅん、独り身にはちょっと刺激が…
なんだかよくわからないことをごにょごにょ言っている。
そのうち
あ、そだ
といって、あたしにリボンを渡してきた。
俺今日忙しかったんだわ―。うん、すっかり忘れてたー
すんごい棒読みだけど。
じゃぁ、またね、あんさん!
…ぇ、ちょ、あのっ…
あたしが止める間もなく、新多くんは走り去ってしまった。
なんだったんだろう?
せめてなにが変なのか教えてほしかったなー。
階段の途中の鏡で確かめてみたけど、変なところはよくわからなかった。
玄関をくぐり、すぐ横の事務室を訪ねる。
転入生であることを告げると、少しの間待つよう言われ、そうこうしているうちに担任の先生が現れた。
先生の名は葉月(はづき)といい、まだ年若い男の人だった。
零川(れいかわ)あんさん、だね。話は理事長から聞いている。よろしく頼む、とね
え?
思いがけない言葉に、あたしは驚いてしまう。
理事長がよろしく頼む?
…ていうか、理事長って…
あの、理事長って…
…あれ、知らないの?
はい、と頷くと、葉月先生は笑った。
本当に?…なにそれ、おもしろいね
ひとしきり笑っている先生を見ているうち、なんだか嫌な予感がしていたのだけれど…。
それは、思いっきり的中してしまった。
九条怜一郎さんだよ。…零川さんの婚約者のね。
あたしは頭が真っ白になった。